彼女は何もしなかった。ただ金曜の夜、弘大の裏路地のバルで煙草をくわえていただけだ。友人らとビールを飲んでいた俺の視界にふと入り、最初に交わしたのは視線だった。彼女は疲れたように瞼を垂らしながら、ふと妖しく光った。その煌めきが俺の隅々を舐めた。
次が問題だった。彼女は揺れるようにうつむき、突然ドンと笑った。髪を後ろに投げ出してガラリと笑うと、項が覗いた。その瞬間、俺は悟った。これは単なる好感でも、セクシャルな緊張でもない。途方もない何かが俺を呑み込むと。
欲望の解剖:なぜ俺たちは既に死んだふりをするのか
男は知らずにその瞬間を練習している。女が首を振りながら笑うとき、「その笑い声をどうにか止めなければ」と錯覚する。なぜか?
彼女はまるで世界のすべてのリズムを知っているように見えた。俺はそれが欲しい。彼女のワイルドなエネルギーを自分の中に吸い込みたい。
俺たちは女を絶対に揺らさない。代わりに揺らされなければならない。揺らされながらも彼女の前でより固くならねばならない。
これは同時に存在する二つの欲望だ。一つは彼女に隅々まで揺らされたいという欲望。もう一つはその揺らぎにもかかわらず、彼女を完全に支配したいという欲望。
まるで実話:ドユンとセジン
ドユンはごく普通だった。スタートアップに勤める29歳エンジニア。毎週金曜に飲み会があり、その日も同僚らとビールを飲んでいた。そこへセジンが現れた。会社の後輩の彼女の友達だった。
セジンは文字通り入ってきた。デニムに白T。けれどその白Tがやけて大きく見えた。手首がほの見えるかどうか。彼女はテーブルに座るなり、誰にも気づかれずドユンをチラリと見た。たった一度。それだけだったのに、ドユンは手にしたビールグラスを滑らせそうになった。
「ここ初めてなの。何がおいしい?」 「えっと…まずこれ」ドユンがメニューを滑らせる。 「あ、でも私お酒弱くて」 「じゃあ…コーラ?」
彼女は吹き出した。*コーラ?*その瞬間ドユンは悟った。コーラは間違い。でも彼女の笑いは正解。その笑いの背後に隠されたものは?
彼女は飲めないと言ったが、瞳はまるで呑み干してしまいそうだった。だからドユンはまた聞いた。 「じゃあ…何を飲む?」 「私…あなたと飲みたい」
その夜、ドユンは家に帰れなかった。セジンは彼の手を取り、弘大の裏路地を歩いた。突如立ち止まった。路地の屋台から出てきたおっちゃんが「夜通し歩くのか?」と声をかけた。
セジンが振り返る。 「私たち、まだ始まってもいないの」
その言葉がドユンの心臓を締め付けた。まだ始まってない?なら今この瞬間から、彼女はどうやってドユンを始めるのだろう?
もう一つの実話:ミンソとジェホ
ジェホは32歳、カフェのオーナー。平日の午後、ミンソがやってきた。彼女はいつも同じ時間に来る。15時15分。アメリカノ一杯。そして一冊の本。今日は『菜食主義者』だった。
ジェホはミンソの瞳を知っている。彼女が読書するとき、瞳がわずかに揺れる。その揺れが凄くセクシーだった。だからジェホはいつも同じことを言う。
「今日も『菜食主義者』?」
ミンソが顔を上げた。瞳が煌めいた。 「違う。今日は…ジェホさんの顔を見たの」
ジェホはその言葉にやられた。どういうこと?彼女は本を閉じ、立ち上がった。
「読書は苦手なの。ジェホさんの顔の方が面白くて」
その日からジェホはミンソのテーブルに直接アメリカノを淹れ始めた。ミンソは毎日同じ時間に来て、毎日同じことを言う。
「ジェホさん、今日は何を見た?」
ジェホはゆっくり答えた。今日はミンソの指を見た。昨日はミンソのピアスを見た。彼女は頷いた。そして言った。
「私…ジェホさんに見られてるのを見たの」
なぜ俺たちはこれに惹かれるのか
女たちは知らない。理想的女性像なんて、男が作り上げた嘘だということを。
俺たちは彼女たちが完璧に笑うことを望まない。不完全に笑ってほしい。少しずつ揺れながら、少しずつ狂っていくように。
彼女たちが狂い始めた瞬間、俺たちは完全に狂ってしまう。なぜなら、その不安定な揺れの中で自分を見つけるからだ。
俺たちは彼女の瞳の中で「俺は完全に狂ってしまうかもしれない」という事実を見る。そしてその事実はとても甘い。
最後の問い:まだ揺らいでいないのかい
今この瞬間、誰かが君に向かって首を振りながら笑っているかもしれない。そして彼女は何もしていない。ただ君が揺らぐのを待っているだけ。
君はまだ揺らいでいないのかい?それとも、もう完全に崩れ落ちてしまったのかい?