「これ、何だよ」 爪でコツンと突いた。ベッドのヘッドボードの下、布団が少しめくれた隙間に、カチカチに固まった白い染み。軽く弾くと粉のように散った。息が止まった。白さ。固さ。あの匂い、髪の毛を焦がしたような刺すような匂い。ピースがぴたりとはまる瞬間だった。先週、先々週、とっくに消したつもりだった疑念が一度に心臓を鷲掴みにした。
彼女が拭った夜
*違う、絶対違う。*自分に言い聞かせた。でも頭の中はすでに確信していた。先週の土曜、スジンは「会社の飲み会」と言って朝の二時に帰ってきた。
- シャワーは二回浴びたって。シャンプーの匂いが強すぎたから。
- 疲れてるからとすぐに寝ちゃった。
- 朝の四時頃、寝返りの音で目が覚めた。明かりをつけずにベッドの脇を拭いていた。手にはティッシュの束。
あのときは知らなかった。この白い染みこそが、その夜の残骸だと。
なんで僕は拭わなかったんだろう。いや、なんで拭ったんだろう。
欲望の解剖
白い痕は単なる証拠じゃなかった。僕を食い尽くした疑念の骨だった。疑いは最初から渇望だった。彼女の体のどこにも自分以外の誰かの痕を残したくないという執着。毎晩、髪の毛一本、匂いひとつまで検閲する習慣。それが結局自分を崩した。 証拠を探す瞬間、僕はすでに死んでいた。
本当はもう知ってた
人は紙コップについた口紅の跡、余ったコンドーム、匂いのするシャツで裏切りを語る。でもそれは始まりにすぎない。本当の地獄は痕すら残らないときに訪れる。
ジュンヨンの話だ。彼は妻ヘジンのブラウスをアイロンがけしてて見つけた。腋の内側に小さな白い粉。洗濯しても落ちない、化粧品じゃない何か。
- 誰も着ない白いブラウスだったって。飲み会のときだけ着るあの服。
- ヘジンは「乾燥機のせいよ」と言った。
- ジュンヨンは毎晩その染みだけを見つめたって。次第に固まっていく、あるいは錯覚のように広がっていく。
一ヶ月後、ヘジンが出張に出た日、ジュンヨンはベッドシーツを全部はがして窓の外に投げ捨てた。そして離婚した。染みは相変わらず白かった。何でもなかったかもしれない。でもその残骸はすでに二人の間に楔を打ち込んでいた。骨のように、罪のように。
僕の実話はもっと惨めだった
僕はその染みを放置した。スジンに気づかせるように。わざと爪でこすって白い粉をちらちら落としておいた。明け方、スジンがトイレから出てきて気づいたときも知らんぷりした。
彼女はしばらく見つめてから布団をかけた。
- 朝、目も合わせなかった。
- 家を出る前、ベッドをもう一度直した。
染みは消えていた。
その夜スジンは遅く帰ってきた。何も言わずにシャワーを浴びてベッドに横になった。僕は彼女の背中を見つめて尋ねた。
「今日も誰かと会った?」
スジンはゆっくりと振り返った。目が腫れていた。
「ごめんね」
それだけだった。
その白さが僕らだった
なぜ僕らはこんな残骸に執着するのか。答えはシンプルだ。信じたくない真実より、確かな嘘の方がましだと信じているから。白い染み一つで十分だった。これ以上の証拠はいらなかった。
疑いは愛の反対語じゃなくて、愛の完成形だった。
僕らはみんな、愛する人のベッドのどこかに自分を溶かしておきたいと思ってる。でも同時にどんな痕も残したくない。そんな矛盾がすべての破局を生む。
白い痕は結局、僕らが欲してたものの亡霊だった。残されながらも無い、あっても無い。まさに愛そのものだった。
ベッドの脇に今でも白い染みがある。誰も消せない。あなたは今もその染みを探してる?それとも見ないようにしてる?