「姉さん、ちょっと見て」 ジュンハがスマホを突き出す。今日も彼は私を『姉さん』と呼ぶ。同い年なのに、まるで古くさい慣習みたいに私たちの間に根付いた呼び名。私は彼の手元の画面を覗く。SNSにあげた私たちの写真だ。5年前の大学初フェスで撮ったもの。
「私たち、若すぎて…」 言葉尻を濁す。写真の中の21歳の私たちは本当に青すぎる。ジュンハは細面にまだ幼さが残り、私はショートヘアで素顔が透けて見える。今でもそうだけれど、あの頃は何も知らない子どもだった。
彼が目を離せなかった夜
「姉さん、今日は変なんだ」 プロジェクト締め切り後の飲み会。ジュンハがビールジョッキを回しながら呟く。もう4杯目。いつもなら「酔っ払ったね」で済ませるところだけど、今夜は違う。彼の視線がおかしい。初めて見る人を観察するように、私の目鼻口をなぞる。
「どこが変なの?」 私は知らず髪をかきあげる。その瞬間、ジュンハの瞳が揺れた。かすかに、でも確実に。彼は瞬いて言った。
「姉さん……じゃなくて、ジスや」
あれから5年ぶりに、彼は私を『姉さん』と呼ばなかった。
欲望が染み込む隙間
どうしてこうなるの?単なる友達なのに。呼び名が変わっただけなのに。
でも私は知っている。一語が何を意味するかを。
『姉さん』は家族。守るべき対象で、弟で、絶対に越えてはいけない線だった。 『ジスや』は女。恋愛の対象で、欲望の対象で、指先が届く距離にいる存在。
あの夜、家に帰るなり私は鏡を見た。5年ぶりに自分を“女”として見るということ。ジュンハの視線が触れた肩、うなじ、手の甲。すべての部位が他人のものに感じられた。
ミンソの話
「30日間、毎晩夢に出てきた」 カフェでミンソが囁く。彼女も7年の男友達から同じ変化を目撃した。ヨンハという友人。サークルの先輩として出会い、卒業後も連絡を取り合っていた。
「ヨンハお兄さんが急に……いえ、ただヨンハって呼ぶようになった。それで座ってる私を見下ろしてこう言ったの。『ミンソ、お前ももう女なんだな』」
ミンソはティーカップを弄ぶ。
「瞬間、心臓が爆発しそうだった。だって私も彼を“男”として見ていたから。でもそれを見抜かれた瞬間だった。7年間隠してきた秘密が露見する感じ」
彼女は一か月後、ヨンハとベッドを共にした。でもその後連絡が途絶えた。7年の友情が一夜の欲望で消えた。
ジヨンが語る真実
「私たち、今でも連絡取り合ってる」 ジヨンは冷静だ。彼女は幼なじみソンウと10年の友情を保ちながら昨年関係が変わった。ある日突然ソンウが彼女の名を呼んだ。
「ジヨン、好きだ」
「断った」ジヨンは明確に言う。「だって知ってるでしょ。その欲望が永遠じゃないって。10年間姉さん-弟で過ごしてきたじゃない。それを壊したら何が残る?一瞬の熱と10年の気まずさだけ」
彼女は今でもソンウと週末にネットカフェへ行く。でもお互いの視線を合わせない。あの目が何を意味したか知りすぎているから。
なぜこの欲望に屈するのか
なぜ私たちは古い友人の変わった視線にときめくの?それは単なる長期友情ではなく、タブーそのものへの歓喜だ。
5年、7年、10年。長い時間、私たちは互いを「兄」「姉」「弟」という名で閉じ込めた。それはまるで血縁の近親相姦タブーのように機能した。隙間なく、確実に。
だからそのタブーが壊れるときの快感は想像を超える。
君も私を欲してたんだ。5年間隠してたんだ。
信じられない発見に私たちは酔う。初恋より強烈な、禁断の果実。誰かに初めて“女”あるいは“男”として見られたことに酔う。
でもすぐ気づく。その視線がどれほど怖いか。
ジュンハは今でも私を『姉さん』と呼ぶ。時々誤って『ジスや』と呼ぶと、私たちは二人とも素早く視線を逸らす。その0.5秒の過ちが何を燃やすか知りすぎているから。
5年の友情を一夜の欲望に変えられるだろうか?そしてその欲望が冷めたとき、私たちに残るものは何だろう?
あの夜、ジュンハの目を見られないまま私は訊いた。知らずに。
「ジュンハ、君は今でも私を姉さんと呼びたい?それとも……」
言葉を続けられなかった。彼が答えられなかったように。