「君を見ると息が詰まるんだ」 ジェヒョンが言った。インド料理店の柔らかな照明の下、彼の瞳は十分に真剣に見えた。私は腕の毛が逆立つのをごまかすようにラシを啜った。けれど、同時に彼の視線が私の背後、壁にかかった鏡に流れているのを見逃さなかった。私を見ながら言っているのではなく、二人の映るシーンを確かめていたのだ。
燃え上がるような出逢い、その裏に隠された打算
男たちが口にするロマンスの大半は標本だ。 標本――誰かに通用したレシピをそのままなぞること。 ジェヒョンも例外ではなかった。彼は初デートで、一週間前にSNSに載せた本の一節を口にした。誰かが作った感情フレーズを。 私は短い文の奥に熱い欲望ではなく、冷たい打算を読み取った。 『この子はこんなセリフに弱いだろう』
彼が「愛してる」と言った瞬間、本当に知りたかったのは私じゃなく「私が反応する姿」だった。
カタログ化された嘘、4つ
1. 「目が離せないんだ」
実際には目が離せないのではなく、入り口を探しているだけ。地下鉄で出会った女性のハイヒール、隣のテーブルの笑い声、スマホ画面の見知らぬ顔。一人ずつスキャンしながら『この子も可能性あるかな』を測っている。目が行く=まだ相手を決めきれていないという証だ。
2. 「君といると息が詰まる」
この言葉は逆だ。君といると息が抜けて、別の欲望が湧き上がる。君のせいで窒息しそうに苦しいけれど、その苦しさがなんて甘いことか。ジェヒョンは言った。「君といると言葉が出ないんだ」。でもすぐにトイレから戻ると、彼はメッセージを打ち続けた。息が詰まる=今この子以外にも会話すべき相手がいる合図だ。
3. 「他の人とは違う」
これが最も残酷な嘘。実際には『他の人と同じでもいいかな』を計算している。他の女性と同じように終わりたくないのではなく、同じように始めたくないからだ。もし「他の人とは違う」が本心だったら、わざわざ口にしなかったはず。だから言うのだ。この一言がなければ、この子は特別に見えないから。
4. 「今は真剣に付き合いたい」
この言葉だけが最も正直だ。今『この子では』真剣になれないから、次の子には真剣になりたいという意味。ジェヒョンもそうだった。私には「今回は本気」と言いながら、翌日会った友人には「まだ遊びで十分」というメッセージを送った。
彼女のダンス、彼の沈黙
私はセリンの話を聞いた。クラブで出会った男がいた。彼はセリンのダンスを見ながら近づいてきた。 「誰と来たの?」と訊き、セリンは「一人」と答えた。 瞬間、男の目の色が変わった。一人で来た女は誰にも責任を取られないという打算だった。
その夜の記憶は鮮明だった。 あなたの手が腰に触れ、あなたは繰り返した。 「こんな子は初めてだよ」 でも後で彼は友人にメッセージした。 『今日もゲット。一人で来る子が一番楽』
なぜ私たちはこの嘘に酔うのか
ロマンスの嘘は私たちが欲している嘘だ。セリンは知っていた。彼が紡ぐ感動のセリフがすべて偽りであることを。それでも必要だった。なぜなら、それがなければ自分自身が惨めに見えてしまうから。
「男たちが嘘をつけばつくほど、私はもっと聞きたくなった。なぜなら本当のことを聞いたら、私はもう彼を求める理由がなくなってしまうから」
嘘は私たちの欲望を肥大化させる。その欲望は『今回は本当かもしれない』ではなく、『今回も嘘であってほしい』だ。嘘なら、私たちはまだチャンスがあると信じられる。本当の愛なら、それを手に入れられなかった時、私たちは終わりだ。でも嘘なら、次の嘘を待てる。無限の可能性が開く。
最後の問い
「愛してる」と言われた夜、なぜあなたはその瞳を信じたの? いや、嘘だと知りながらなぜ目を閉じたの? それはもしかしたら、あなたが本当に欲したのは彼の愛ではなく、愛という嘘そのものだったのかもしれない。