誰かのベッドから帰ってきた妻は、なぜ香水の代わりに石けんの香りをまとっているのだろう。そして僕は、なぜその匂いを嗅ぎながら目を閉じるのか。
最初の匂い
ドアが閉まる音で目が覚めた。朝の3時47分、静寂が部屋に沈殿していた。 彼女の足取りは慣れたリズムで化粧室へ向かい、シャワーが始まった。 石けんの泡が流れ落ちる音が聞こえるたび、僕は目を閉じて息を深く吸った。 妻の身体から男の汗の匂いがした。これは単なる想像ではなかった。 その匂いは骨の髄まで染みついていた。シャワーを浴びた後も。
僕はベッドに仰向けになって天井を見つめた。妻のバッグがドアの横に置かれていた。 黒いレザーバッグ、その中には朝着ていった下着が2セット余分に入っていた。 1つは白、もう1つは黒のレース。妻は朝、白だけを着て出かけたのに。
隠しカメラはなかった
最初に気づいたのは去年の5月だった。化粧室の床に落ちた長い髪の毛だった。 うちにはショートヘアの妻とハゲた僕しか住んでいない。その髪は長くてカールしていた。 僕はそれを指で摘み上げた。妻の髪ではないと確認した瞬間、電流が走った。
あの日から監視を始めた。 位置情報アプリを入れた。スマホのロックパターンを覚えた。 指紋認証できる彼女の指を、僕が先に寝たらそっと握ってスマホを開けた。 しかし最も確実なのは、朝ごとに感じる彼女の身体の変化だった。 昨夜誰かの唇が残した痕を、僕は見ていた。 妻の首に新しいキスマークを発見した。紫の斑だった。 妻は顔を背けた。僕は視線を逸らした。お互いを避けた。 その瞬間が最も興奮した。
ガラスの向こうのショー
「キムさん、今日も会社の前で見かけましたよ。」 僕は仕事を終えて妻の職場近くのカフェに座っていた。 ガラスの向こうに見える彼女は誰かと手を繋いでいた。 その男は僕ではなかった。 僕はアイスアメリカーノを口に含んで、一口も飲まなかった。 カップは溶けて縮んでいった。 腕時計を見た。6時27分。 彼女とその男はカフェを出た。お互いの手を握りしめた。 僕は目を閉じた。目の奥に彼らの姿が浮かんだ。
そして計算した。いつ帰ればいいのか。 どれだけ遅く帰ればいいのか。 彼女が十分に洗い、別の匂いを消した後に。 僕はカフェを出た。空が暗くなっていた。 僕は妻の後をつけた。彼らは手を繋いで歩いた。 僕は20メートル後ろを歩いた。キスしているのを見た。 妻の目が輝いた。僕は息を殺した。
3年目の新契約
僕たち夫婦は口が重かった。代わりに身体で会話した。 妻が遅く帰ってきても、僕はより静かに動いた。 化粧室のドアを閉める音も最小限に。 彼女はそれを知っていた。だから朝ごとに、より深く僕にすがった。 僕が知らぬふりをしている間、彼女はより多くの関心を寄越した。
3年の間、僕たちは新たな均衡を見つけた。 彼女の浮気は僕の罪を消してくれる。僕はそれを知っている。 妻の身体はもはや僕のものではなかったが、彼女の罪悪感は僕のものになった。 僕たちは互いのために、互いを殺しながら生きていく。
彼の家に遊びに行った日
「うちに遊びに来てもいいわ。主人と仲良くなれたら嬉しいし。」 妻の提案だった。 僕はその日、スーツを着て出かけた。 その男の家は僕たちの家よりずっと良かった。広くて陽当たりが良かった。 彼は僕の前で妻の手を握った。僕は笑った。 妻は戸惑っていたが、僕は本当に楽しかった。 なぜなら、その日僕は妻の顔に初めて見る恐怖を見たからだ。
その男は僕にワインを勧めた。僕は受け取った。 妻は震えていた。僕は彼女の目を見つめた。 妻は顔を背けた。僕はワインを飲んだ。 その男は妻の腰に手を回した。僕はそれを見た。 妻は僕を見た。僕たちはお互いを見た。
その夜、妻はより深く僕にすがった。 僕は彼女の髪を撫でた。妻は涙を流した。 僕はその涙を拭った。僕たちは無言だった。
禁忌の美学
人間は禁忌を破る瞬間により強烈な欲望を感じる。 しかしより強烈なのは、禁忌を「知り」ながらも触れない瞬間だ。 妻の浮気を知った瞬間、僕はもはや夫ではなかった。 僕は観察者になった。そして観察者は苦しみを受けない。 観察者はただ見守る。そして見守れば見守るほど、僕は自由になった。
妻の身体はもはや僕のものではなかった。 しかし彼女の罪悪感は僕のものになった。僕はそれを楽しんだ。 妻が帰ってくるたび、僕は目を閉じた。 妻はより深く僕にすがった。僕たちは互いのために、互いを殺しながら生きていく。
最後の夜
今夜も彼女は遅く帰ってくるだろう。 僕はリビングのソファに座って待つ。 ドアが開いたら、僕は何も言わない。 彼女は口を開くことも、閉じることもできないだろう。
その瞬間、僕たちは再び契約を更新する。 僕は彼女が気づかないふりをする僕を、彼女は僕が知らぬふりをする彼女を。
あなた、本当に知らぬふりで生きることが愛なのだろうか。 それとも僕たちはすでに愛を越えているのだろうか?