ドアノブが回る0.7秒、彼女は唇の奥に潜ませた赤を飲み込む。
最初の削除
アラはリビングの明かりを消し、カーテンを閉めた。ミンスが出かけてからまだ4分。指先が震える。 ティッシュシートがマトリックスのように唇を押さえる。六枚目だ。一枚目はツヤ、二枚目は色素の残骸。三枚目はまだ生きた赤。四枚目、五枚目には影だけ残り、六枚目は――
「これは……違う」
隠していた一点が滲み広がる。赤が広がるにつれ、彼女の息も混ざり込む。ゴミ箱の中のティッシュは湿り気を帯び、まるで嫉妬深い男の指のように。
17分間の赤い嘘
ミンスが帰る17分前。アラはベッドの端に座り、目を閉じる。やがて引き出しの奥から取り出したのは新たな赤。17分という時間は彼女への許可証だ。 致命的な色を纏った唇の上で、彼女は舌をちらりと出す。味はアーモンドと鉄の混じり合ったもの。これは罪の意識か、それとも解放か。 ドアが開く。ミンスは唇に指を這わせる。いや、這わせるふりをする。指先が滑る間、彼は肌に残る微かな赤を確かめる。
「今、消せ」
強制ではないが、彼女は立ち上がる。バスルームでドアを閉める。ドアの前に立つミンスは彼女の後ろ姿を見つめる。膝の裏を流れるシルエット、その先に隠された赤。
引き出しの奥の秘密
ミンスが寝静まった後、アラはベッド下の引き出しを開ける。そこには消された口紅が積まれている。ねばねばとした赤い痕は乾いた血のように固まる。 彼女はゴミ袋を開け、今日のティッシュを入れる。そして静かに冷蔵庫の扉を開ける。グラスに赤ワインを注ぐ。 ワインを一口含み、アラは唇を湿らせる。舌がちぎれる。アルコールがざらつく間、彼女は口を開ける。大きく息を吸い込む。
ユジンの45秒
ユジンはトイレで45秒で全てを消した。ミンスが突然入ってきたとき、彼女はまだ唇に残る赤を隠せなかった。
「なに、これ?」
ミンスは彼女の唇を掴む。親指で赤をこすり取る。ユジンは目を閉じる。ミンスの指が唇を過ぎ首へと降りていく。
「誰に会った?」
ユジンは首を振る。ミンスは彼女の唇に指を押し当てる。赤が指に付着する。ミンスはその色を眺めてため息をつく。
「俺が嫌いなの?」
ユジンは目を開ける。ミンスの瞳に浮かぶのは怒りか、欲望か。ユジンは小さく頷く。ミンスは彼女の唇に唇を重ねる。赤が二つの唇の間に滲む。
隠しカメラ
アラはミンスが寝た後、彼のスマホを開いた。ロック画面には女性同僚の顔がアップで映っていた。赤い口紅が鮮やかだ。 アラはその写真を長く見つめる。翌日、ミンスが出勤するとすぐ、アラはリップグロスを塗る。彼女は鏡の前で唇をわずかに開く。艶やかな赤が唇を包む。
ユジンの記録
6月7日 – ミンスが突然入ってきた。45秒で完全消去。震えは13分続いた。 6月15日 – ついに聞かれた。誰に会ったかって。違うって。信じたふりをしたけど視線は冷たかった。 6月20日 – 今日は消したけどすぐに塗り直した。ミンスが聞いた。答えずにいた。怒り。 なんでそうなる?俺が嫌い? 違うって言ったけど無駄だった。その夜、化粧台の全てをゴミ箱に捨てた。
ドアの前で
アラはドアの前に立つ。ミンスが帰ってくる。彼女は口紅を消す。ティッシュを唇に押し当てる。赤が消えるたび、彼女の息も混ざり込む。 ドアノブが回る0.7秒。彼女は唇の奥に潜ませた赤を飲み込む。
「ただいま」
ミンスは彼女の唇を確認する。赤はない。彼は頷く。アラは微笑みながら彼の頬に口づける。けれど彼女の舌の先にはまだ赤が残る。密やかな味、密やかな罪の意識。
秘めた欲望
ミンスが寝静まった後、アラはベッド下の引き出しを開ける。そこには消された口紅が積まれている。ねばねばとした赤い痕は乾いた血のように固まる。 彼女はティッシュを取り出し唇に押し当てる。赤が消えるたび、彼女は息を殺す。 ミンスのいない時間、彼女は再び口紅を塗る。