「少し距離を取ろう」と呟いた瞬間、僕たちはもう別れていた
彼が言った。「ちょっと距離を取ろう。」 そのひと言で、私は裸の心を残された。
午前1時17分。ベッドの真ん中で仰向けになり、何も身に着けていない体がかえって冷たかった。 無意識にシーツの端を握りしめたけれど、震えは止まらなかった。
『距離を取ろう』は、いつだって別れの匂いを孕んでいた。
「そうね、じゃあ連絡なしにしよう」
私は文字で返した。
そして 最後の会話 を自分から消した。
0.5秒の方向性
ヒジンは42日間、数え続けた。 「少し離れよう」って言われたのは、去年の10月2日午前3時42分。 それから1時間たりとも欠かさず、42日間、連絡はない。 ワンルームのベランダで吸った煙草の本数、空き缶ビールの数、ドアの前に置かれた出前の袋まで。 全てが42という数字で語ってくれた。
「あの時、気づいたの。『距離を取ろう』って、本当は『終わりにしよう』って意味だって。」 居酒屋でワインをひとくち飲みながらヒジンが言った。 「それでも私は“うん”って答えた。だって、終わる瞬間でなければ、まだ終わってないから。」
ジュヨンの遅すぎた告白
その冬、大学路の居酒屋でばったり出会った。 ヒジンは滲んだアイメイクで笑っていた。 ジュヨンは彼女の手に持つワイングラスを見つめて口を開いた。
「ごめん。“距離を取ろう”って言って、君を引き止めた。実は……あの頃、もう君と終わりたい気持ちだけだった。」
ヒジンは小さく頷いた。 「私も知ってた。全部知ってたのに、知らないふりしてた。だって……終わりって言われたら、私はもう待つ理由がなくなるから。」
宙に向けた手
禁忌の誘惑は実は単純だった。 「距離を取ってる間」に僕たちが出会ったのは 虚無 だった。 ヒジンはその虚無を胸の奥底で感じた。 何もない部屋のど真ん中、裸で立っていた。 手は宙に向かっていた。 どこへ行けばいいのか、何を掴めばいいのか、誰も教えてくれなかった。
彼女は膝をつき、目を閉じた。
「身体が覚えてる。あなたに抱かれた場所、あなたの息が触れた場所。だから私、まだそこを空けておく。」
今、あなたは何を待っているの?
今、あなたは誰かに「少し距離を取ろう」と言いたいの? それともその言葉を聞いているの?
大事なのはこういうこと。 距離を置いた間に浮かぶその人の顔が、本当に戻ってきてほしいものなのか、それとも掴めない最後のイメージを長く抱きたいだけなのか。
この瞬間、あなたが待っているのはあの人自身なのか、それとも結局戻らない未来の自分自身なのか。
最後の一文
「少し距離を取ろう」は、いつだって別れの幕開きだ。 僕たちはそれを知りながら知らないふりをした。 そしてそのあとに残ったのは、裸の心と道に迷った手の動きだけだった。