「また彼女が来たよ」
警察署の相談窓口、午前3時。蛍光灯の光が私の顔を格子のように裂く。49枚目の受付票を握りしめたとき、担当の刑事が時計を見ながら呟いた。
「毎晩出てくると……君の方が不審に見えるよ。」 その言葉は、口の中に隠した指先のようにじんじんとした。私はうつむき、短く切った髪の間から首筋が覗いた。彼の瞳がピントを失って、またギラついた。 見間違い? 違う、確かに這い回った。首の後ろからお尻まで一気に。
毎晩立ち尽くす廊下
最初はメッセージだった。
「君の後ろ姿が好きで毎晩立ってる。静かにしろよ。」 それからエレベーターは湿った水槽になった。下の階の男が乗ると、香水の匂いが立ちのぼった。‘レッドルーズ’、袋の紐に残った香り。扉が閉まると、私の英語の名前が書かれたステッカーが反射し、彼の目と出会った。 Eunchae. 唇を固く結んでも、彼が発音するように見えた。 Eun…chae. 一音節ずつ呟くような錯覚。ゴミ袋が玄関に置かれたのは一週間後。魚の生臭さの染み込んだ内側に、裂けたストッキングの切れ端が入っていた。 **黒色、私が先日捨てたあれ。**誰かが拾ってきて、再び贈り物にするような感覚だった。ビニールの冷たさが胸の奥で熱に変わった。
21階の防犯カメラと震える手
午前2時47分。21階廊下のカメラは赤外線で私の体を溶かす。録画の中の私は、壁に耳をつける女として記録される。震える手首が画面の外に飛び出しても、見て見ぬふり。 下の階の男は廊下の端で足を止めた。秒針のように。 交互に床を打つ音、私は俯いた。目を閉じた。それでも彼は歩いた。ドアの前まで来て立ち止まった。ドアノブを握る音。カチッ。 結局開かなかったが、ノブを揺らす強さは次第に増した。 防犯映像を取りに警察署へ行った。担当者はUSBを差しながら舌打ちした。
「こんな格好でどうして…後ろ姿が揺れてるじゃん。」 画面一時停止。私がパジャマ姿で玄関に立つシーン。腰が丸まりお尻が浮き出る。彼は指で画面を指した。 一時停止。 巻き戻し。 スロー再生。 また揺れる。私は唇を噛んだ。血管が破裂しそうなほど熱かった。
グループLINEとブラインド
地域のグループLINEに上がった写真。 **裸の背中。**白いシャツが半分めくれて素肌が覗く。私じゃないかと思った。同じ地域、同じ階。誰かが廊下のカメラ映像を横流ししたのだ。 コメントは瞬く間に増殖した。
『女が毎晩出歩いて…』 『男の立場だと誤解するよね』 『うちの価格下がったら誰が責任取るの』 数字が上がるほど私の顔は消えた。ヌードのように剥ぎ取られた背中だけが残った。胸ではなく背中だから、もっと長く耐えた。 でも私は被害者だって。 その言葉はLINEの中では誰にも届かなかった。代わりに「物件急募」という不動産屋のメールが来た。 「急いで出られないとまずいですよ。」
50枚目の受付票
50回目の相談窓口。受付票を受け取る瞬間、係員は私をあだ名で呼んだ。
「ああ、50回目のお嬢さん。」 紙が厚くなるほど私は小さくなった。一枚が一年のように感じられた。 後ろで待つ人たちが足踏みしながら呟いた。 「またあの女か」 「あんな美人なのにどうして…」 美人という言葉は性犯罪者が隠しておいたコインだった。裏返せば傷が見えた。 私は受付票を握りしめて出た。廊下の壁に貼られた案内が新しくなっていた。 『虚偽通報は処罰対象』の文字の下、小さな防犯カメラのアイコンが印刷されていた。まるで私のお尻を撮ったかのように感じられた。
その夜、防犯カメラが捉えた私の震える手
50枚目の被害届を書いた夜。防防カメラは一歩近づいて私を撮った。 震える手首がカサカサと響く書類の上に影を落とす。記録番号50-014。受付人の筆跡が歪み『被害者』の文字が『加害者』のように見えた。 私はペンを置いて目を閉じた。 もう私が問題なのか。 その問いは沈黙の中で膨らんだ。 毎晩私のドアの前に立つあの男も、私を放っておかない隣人も、そして私も。 皆が同じ四角いフレームの中に閉じ込められていた。
あなたも彼女のお尻をなめ回しながら、加害者と烙印を押したか。
防犯カメラの震える手の向こうに、あなたの顔が映る。格子のない牢獄。 お互いに唾を吐きかける瞬間、私たちは皆あの夜廊下に立った加害者になったのだ。