雨がまた降ってきた。バッグの内ポケットから取り出したサブフォン、ロック画面の03:14。LINEのプレビューが目の前でチカッと光る。
じすや、君がいない間にあと3回来ちゃった。
一年前のあの日、心臓が破裂しそうに鼓動した。今でも指先に残る振動が震える。濡れた髪の香り、混じるバニラ、そして他人の肌の匂いが鼻先をくすぐる。今でもあの匂いがする。
なぜまた開いてしまったのか
なぜ、まだ腹が立つのだろう。 単に愛した人に裏切られたという事実ゆえではない。この怒りは傷の反動ではなかった。だから怖い。この怒りは愛の反対ではなく、致命的な変奏だった。
私たちは裏切りを許せないのではなく、その裏切りにもなお求めてしまうという事実に言葉が出ない。相手を思い浮かべながら、それを自分の屈辱だと感じる。
彼が去った場所に、私はまだ立っていることが恥ずかしい。
アルバム一枚、ボイスメモ一つ
ケース1・智恵(37)の7枚
智恵は夫のGoogleドライブを偶然開いて、一年間同じフォルダを繰り返しクリックしている。7枚の写真、夫は妻に隠れて撮った旅行先で笑っている。女性の顔はモザイクだが智恵は知っている。会社のサークル後輩だった。
私もこんなに幸せそうに写ったことがあっただろうか。 涙は出ない。代わりに奇妙な興奮が込み上げる。智恵は写真の中の女性の服や靴、手に持つコーヒーカップまで分析する。ひとりで夫の笑顔を拡大し、ピクセルひとつひとつ覗き込む。彼女は7枚の写真を一枚ずつダウンロードしては消す。来週またダウンロードする。
ケース2・敏赫(41)の3分12秒
敏赫は妻のLINE会話をこっそり録音した。3分12秒、短いファイルだが彼は毎晩イヤホンを挿して眠る。声が馴染みがない。
お兄ちゃんといると本当に落ち着く。 家に帰りたくない。 二文が繰り返される。敏赫はその声を聴きながら自分の傷を反芻する。愛する人の愛する相手が自分ではないことを確認する。ボリュームを上げて息遣いまで聴く。途中で聞こえる他人の笑い声、紙をめくる音、グラスが触れ合う音。敏赫はそんな些細な効果音まで覚えてしまった。
なぜ惹かれるのか
怒りは愛の最も劇的な形だ。裏切りを許せないのではなく、裏切りにもなお求めてしまうという事実により腹が立つ。心理学者ロバート・スターンバーグは、愛を親密さ・情熱・約束の三角形とした。裏切りは三角形を粉々にする。執着はその壊れた場所に新たな形を作る。
相手の裏切りを分析しながら同時に自分の責任を探す。
私が足りなかったのか。 私がもっと上手くやっていれば。 この問いは、実はまだ相手を望んでいるという証拠だ。裏切り者への怒りは、裏切り者への未練である。私たちは裏切りを自己憐憫に変換する。
最後の問い
一年経っても忘れられない理由は、単なる傷ではなく、なお君を望んでいるという事実だからだ。 君の裏切りは私に残された永遠の傷ではなく、永遠の愛の証だ。 ならば、今こそ私は君の裏切りを許すのではなく、その裏切りにもかかわらずなお君を愛しているという事実を、どう終わらせればいいのだろう。