恋愛心理研究所 愛と恋愛の心理学

ベッドに残る香り、5年目夫婦を飲み込む未解決の欲望

結婚5年、シーツに残る見知らぬ香りが二人を揺さぶる。妻の髪に移った匂いの主は誰でもない。大切なのは、同じ欲望の渦に沈んでいること。

夫婦の葛藤既婚者の欲望香りへの執着寝室の秘密結婚の影
ベッドに残る香り、5年目夫婦を飲み込む未解決の欲望

朝7時半、ミンジェは目を覚ました瞬間に気づいた。妻ジアの枕の横、約10センチ離れたシーツに、ガラス玉のように残るあの香り。言葉にできないほど官能的な甘さ。チョコレートに濡れた木材と、バニラを含んだレザー。明らかに女性の香水だが、ジアが使っていたものではない。彼女はいつも白い花と控えめなムスクを、服のように纏っていた。ミンジェはゆっくりと息を吸った。鼻の奥がくすぐられるほど、吐息が届く場所ごとに染みついた香りに、指先が勝手に動き出す。 ジアは誰を抱いたのだろう。


眠っている間に広がった夜のシルエット

その夜、ジアは目を閉じてまた開けた。午前2時10分。リビングから漏れる小さな吐息のような音。そっと身を起こし、寝室のドアを開けた。ミンジェはソファに横たわっていた。シャツのボタンを一つ外し、何かを手に握りしめている。淡い照明の下、その手から仄かな香りが立ち昇った。 また、あの香水だ。 ジアは立ちすくんだ。ミンジェが持ち込んだものに違いない。去年の誕生日に彼女がもらったプレゼント。でも受け取った瞬間に洗面所のキャビネットの奥に仕舞ったボトル。男の欲望を燃え上がらせる香り、と書かれていたが、ジアには恥ずかしすぎて手に取れなかった液体。なのに今、ミンジェはその香りを指に含ませ、自分の首筋をちょんちょんと叩いている。目は閉じたまま、体はまるで誰かに香水をつけているかのように動いていた。 ジアは扉の陰に身を潜めた。胸がどきどきした。夫が誰を想いながらその香りを振りまいているのか、わからなかった。でも知りたくもなかった。この瞬間、彼女はその香りに酔っていた。


引き出しに隠された他人の痕跡

数日後、ミンジェは会社の部活動の後輩と飲みに行った。27歳、ヘビン。名前を聞くだけで蜜のように甘く広がる声の持ち主。 「先輩、最近お宅で香水つけてるんですか?」 ヘビンが微笑みながら訊ねた。ミンジェは顔が熱くなった。彼女は知っていた。先月、ヘビンが香水をプレゼントされた日。ミンジェが彼女の手を取り「香りを嗅いでみて」と手首にふっと吹きかけたこと。会社の裏の駐車場、車の中で。そのときミンジェの指に残った香りが、ヘビンの首筋に染み込んだ。 ミンジェはその香りがジアに移ったのではないかと恐れた。しかし同時に、その恐れが指先をくすぐった。 ヘビンはグラスを傾けながら言った。 「先輩、その香りすごく好き。5万ウォン(約5千円)の安物なのに、なんて言うか……秘密めいてますよね」 ミンジェは舌を転がした。その秘密めいたものが、ジアとミンジェのベッドの上に残っていることを、ヘビンは知らない。


香りに沈む二人の真実

その夜、ミンジェは早めに帰宅しベッドに横になった。ジアがシャワーを終えて入ってきたとき、彼女の髪から白い花の香りではなく、バニラとレザーの香りがした。ミンジェは目を閉じた。ジアが化粧台にあった香水を使ったのは明らかだった。その香水はミンジェが去年の誕生日に受け取ったもの。でも彼女は一度も使ったことがなかった。 ジアはそっとミンジェの隣に横たわった。二人の間、10センチほどの空間。その空間に香りが徐々に広がった。お互いの香りが混ざり合うにつれ、ミンジェは突然涙が出そうになった。 僕たちがどれほどお互いを求めているか、この香りが代わりに語ってくれている。 ジアが囁いた。 「今日……誰かに会った?」 ミンジェは頷いた。ヘビン、その名を口にしなかったがジアは察した。彼女もまた会社の後輩、ジュニョクと夕食を共にしていた。ジュニョクはいつもジアに「先輩、この香水本当にお似合いです」と手首に吹きかけてくれる。


タブーを超える香りの誘惑

なぜ僕たちはこの香りに惹かれるのか。いや、なぜこのタブーを越える香りに惹かれるのか。 心理学者は言う。結婚5年目、新鮮さを失った関係において“他人の香り”は新しい刺激になる、と。でもそれはあまりにも淡白な説明だ。 僕たちはその香りに酔うのではなく、その香りの奥に隠された誰かの欲望に酔うのだ。 ミンジェはヘビンの手首に吹きかけた香りがジアに移るのではないかと恐れたが、一方でその恐れがむず痒かった。ジアも同じ。ジュニョクとの夕食、彼女はミンジェに知られぬ誰かの名前を胸の奥で繰り返した。そしてその名前がミンジェの耳に届かないことを願いながら、同時に届いて欲しいとも願った。


ベッドに残る最後の問い

翌朝、ミンジェは目を覚ましたとき香りが消えていた。ジアは洗面所で顔を洗っている。シーツはさらさらで、香りは跡形もない。でもミンジェは、その場所、ジアの枕の横10センチの空間に香りがまだ残っていると感じた。 その香りが誰のものかなんて、まったく重要ではなかった。 大切なのは、その香りを通してミンジェとジアが同じ欲望の沼に沈んでいること。その沼でお互いを呼ぶ声、お互いの名前ではない誰かの名前を呼んでも、それでいいということ。 ミンジェはベッドから起き上がった。ジアが洗面所のドアを開けて出てきた。二人の目が合った。その瞬間、ミンジェは訊ねた。 「その香り……今日もつける?」 ジアは微笑みながら答えた。 「誰を想って?」 ミンジェは答えなかった。彼女も答えなかった。二人はただ見つめ合った。そしてその瞬間、ミンジェは気づいた。 僕たちはお互いの肉体ではなく、お互いの欲望を愛しているのだ。


あなたは今、誰の香りを枕元に置いているだろう?そしてその香りではなく、その香りの陰に隠された誰かの欲望を愛しているかどうか、自分自身に問ったことがあるだろうか。

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