あの夜、ベッドは墓場だった
「本当に痛いの。」 ヒジンは夫の肩をそっとつついた。反応はなかった。いびきが少し大きくなっただけだった。 布団の下から手を伸ばし、太ももの内側を鷲づかみにした。こむら返りのようにねじれていく痛みが夜通し繰り返された。 彼女は目を閉じ、心の中で叫んだ。
どうしてあなただけが眠れるの? 私はここで死んでいくのに。
声に出せなかった言葉
20年。まだ終わっていない。ただ痛みに慣れただけだ。 ヒジンの頭の中では「セックス」という文字がみすぼらしく干からびていた。 かつては眠る前に唇と足先が触れ合っていた夫婦だった。しかし今では年に2回。夫はそれを終えるとベッドに戻ってきて「疲れた」、それだけだった。
これでいいの? 彼女は独り言で問うた。でも返ってくるのは沈黙だけ。 彼女の欲望は部屋の空気のように透明になった。 実は彼女が欲しかったのはセックスではなく「関心」だった。目を合わせて、吐息が触れ合ってほしかった。 でも夫の視線はテレビやスマホの画面にしか留まらない。
サンヒョンは妻の痛みを知らなかった
サンヒョンは妻が眠りから覚めて太ももを揉んでいるのを知りながら、知らないふりをした。 目が覚めたらまた話さなければならないから。 「痛いの?」と訊けば「それでもあなたは私を見に来ないじゃない」と返ってくるから。 彼はその答えが怖かった。 45歳のサンヒョンは会社でも家庭でも「問題ない男」として生きてきた。 妻の痛みは彼の平穏を揺さぶる異物だった。
静かでいてくれればいい。 サンヒョンは布団の中で静かにため息を飲み込んだ。 でももし彼女が本当に静かになったら、自分も生きていることの証を失ってしまうのではないかという不安が喉まで込み上げた。
ミジンは別の方法で叫んだ
ミジンは隣のマンションに住んでいる。夫は毎週水曜日、残業だと言い訳して午前2時を過ぎて帰ってくる。 最初は待っていた。リビングの明かりを消して座り、玄関が開く音に身を潜めた。 「まだ起きてたの?」という問いかけには答えなかった。 代わりにバスルームに入り、シャワーを浴びた。熱い湯を強く出した。 目を閉じて自分の体を撫でた。水音に紛れて呻き声が漏れた。
あなたじゃなくても、誰かに「欲しい」と言えるだろうか。
鏡の中の瞳が潤んでいるのを彼女は知っていた。 水曜日ごとに繰り返される密かな独り言。 結局彼女は夫が入ってくるやいなや寝室の明かりを消した。 目を閉じ耳を塞いでも、ドアの前の足音を見逃さなかった。 その音がベッドの端で止まれば、はじめて息を吐いた。 生きている証はそれだけだった。
なぜ私たちはこの密かな孤独に目を向けるのか
「夫婦」という言葉は2人を閉じ込める柵だ。 外からはいつも「最も親密な関係」と喧伝されるが、中ではお互いを最もよく知らない他人になることもある。 7300日の沈黙は単なる疲労ではない。「許されたタブー」だ。 結婚という名のもとに愛は義務に変わり、欲望は管理対象に成り下がる。 私たちがこの物語に魅入られる理由がある。「たいしたことない」日常を越えて、いつか私たちもその沈黙の中に入るかもしれないという不安のせいだ。 サンヒョンとヒジン、ミジンと彼女の夫は私たちのいつの日かだ。 だから私たちは彼らの痛みを盗み見る。そして安堵する。 私はまだ違うと。
あなたの寝室はどんな音を立てているか
今この瞬間、あなたの隣に横たわる人に、あなたはどんな匂いをさせているか。 あなたが苦しいとき、その誰かは何をしていたか。 そしてあなたはこれから何日、何年、どんな沈黙の中で生きていくつもりか。 その沈黙が破れたとき、あなたは何と言えるだろう。
*「ここで私はひとりで死んでいく」*と言ってもいいだろうか。