ホテルのベッドを指す言葉は、結局口から出なかった。ミンソはキャップを捻り、ボトルの水を最後まで飲み干した。そしてまだ身に纏ったドレスの上に、残りの水をぶちまけた。ああ、気持ちいい。両手が届きそうな距離。新郎ジフンは無言で彼女のドレスを脱がせた。水滴はすでに染み込み、溶け合わない二つの身体をさらに冷たく鎮めた。
初夜、それでも熱いと思っていた私たち
それでも熱いと思っていたけれど、実は沸騰していたのかもしれない。 ベッドはあちこちへこんだキングサイズ。朝のルームサービスを受けながら、ミンソはスマホで「結婚初夜 死亡事故」を検索した。画面がちらつくたび、ジフンがぼんやりと見下ろす眼差しに気づき、あわてて画面を消した。
「何見てるの?」 「別に。」 「私たち、もう『別に』なの?」
ベッドの上に散った花びらがしぼんだ。深紅のバラは一日で枯れ、ベッドも同じだった。
欲望の解剖
人は結婚初夜を「最後に熱くなるべき瞬間」と言う。けれどミンソは、その熱さがまるで湯気の立つお湯の上の肉のようだった。これから先、もう一度も熱くなれないという恐怖。 だから初夜、ミンソは熱いシャワーを浴びた。肌が赤く茹でるほど、涙が混じっても気づかれないほど。 燃えるような関係が、しなびたベッドを占拠したあと、人はさらに熱い何かを自分に注ぎ込む。水でも、香水でも、後悔でも。
現実のような話:ミンソとジフン、そして5本目の水
ミンソとジフンは挙式会場で初めて顔を合わせた。正確には、ミンソの元カレとジフンの元カノが席を外した隙に、食事テーブルで向かい合った。
「ここを出たら、もう二度と会えないね。」 「だったら今すぐ誰かと結婚しちゃえば?」 「誰かって?」 「俺。」
その言葉は冗談ではなかった。2ヶ月後に招待状が回り、義両家はお互いの名前さえろくに覚えていなかった。 沖縄リゾートの初夜、ミンソは口に合わない魚のタタキを食べて吐いた。トイレで吐きながら水を飲んだ。1本、2本、3本……もう5本目のボトルが空になった。彼女は敏感に熱を帯びた自分の肌に触れて呟いた。 『ああ、今死ぬんだ』 死は来なかった。代わりにベッドだけが死んだ。シーツはじっとりし、枕は冷えた汗の匂いを孕んだ。隣でジフンは鼾をかいていた。
聴こえる話
深夜2時、ジフンが眠っている隙に、ミンソはペンションのベランダに出て友人に電話した。受話器越しの友人の声が震えた。
「知ってるお姉さんの話なんだけど……結婚二日目にベッドに香水を撒いたんだって。旦那は残業で。彼女は4度目のシャンプーで体を洗い、5度目の香水をベッドに注いだんだって。」
瞬間、波の音だけが聞こえた。友人が小さく息を呑む。
「グラスを割って手首を切ったみたい。救急室で医者が“どうして?”って聞いたら、そのお姉さん……『体が枯れてしまったから』って答えたんだって。」
ミンソは額を手すりに預けた。潮風が乾いた唇を撫でた。 彼女は今もベッドに熱い何かを注いでいるのだろうか。
タブーへの執着
心理学者ロロ・メイは言った。 愛は死と切り離せぬ兄弟だ。 新婚旅行の終わり、結婚の終わり、あるいはベッドの終わり。その終わりに向かって私たちは水を注ぎ、香水を撒き、体を熱くする。なぜならそれが、まだ自分が生きている証だから。 冷えたベッドより熱い水がいい、しおれた花より真新しいベッドがいい。 結局私たちが欲するのは熱い死だ。生きていても、死んでも、熱い痕跡を残したいという欲望。 だからミンソは水を撒いた。
沖縄の部屋、ジフンは今も眠り続ける。ミンソはベッドの端にどさりと座り込んだ。シーツに触れると、水はまだ冷たい。彼女はそっと目を閉じ、最後の一滴の熱さを思い出そうとした。