"指輪より先に、これを先に"
レストランのシャンパングラスが眩く輝いた。テーブルの下で指輪の小箱を指で軽く叩きながら、僕は目の前に鮮明に浮かぶ『それ』を思い浮かべた。ユジンが無言で僕を見つめる間に、ポケットから小さなビニール袋を取り出した。透明なセロファンに包まれたものは、彼女すら知らずに集めてきた痕跡だった。
鍵のかかった部屋の最初の香り
高校2年生の、遅い夜の友人宅。トイレのドアの隙間から染み出す埃のような香りが鼻先をくすぐった。友人の妹が脱ぎ捨てた薄い布、つま先まで降り積もる石けんと肌が混じり合った残り香。
ふと、盗人になりたかった。
あの日から僕は小さな錬金術を身につけた。彼女の友人が脱ぎ置いたソックス、サークルの後輩が忘れていったスカーフの端。隠しておくほど深まる香りを一片ずつ集めながら、僕は毎晩目を閉じてその匂いを思い浮かべた。春風に濡れたような湿り気、秋のソックスが少しめくれたような温もり。執着は鋭い香水瓶のように深くなっていった。
初恋、最初の匂いの裏切り
大学2年生、初めての彼女ヒジン。付き合って半年で彼女の部屋に初めて足を踏み入れた。ベッド横の整理箱に置かれたブラシの一房から僕は似た香りを嗅いだ。手が先に動いた。
「これ、何?」
ヒジンがドアの前に立っていた。僕が彼女の角質ブラシを振りながら香りを嗅ぐ姿を見た瞬間だった。あの日、ふたりは別れた。
君はちょっと変。
その言葉が今でも鼻先をくすぐる。
封筒の上に置かれた告白
レストランで、僕は封筒をユジンの前にそっと置いた。透明なビニールに包まれたのは彼女の痕跡だった:先月破れたストッキング片方、数日前に置いていったソックス、そして彼女の家族が脱ぎ捨てた靴紐の切れ端。
ユジンの瞳が凍りついた。僕は言った。
「これを抱いて眠ったんだ。君の匂いを、君の居場所を。」
その瞬間、レストランのすべての音が止まった。ユジンの唇が静かに開いて、また閉じた。匂いひとつが消える瞬間、ふたりの間の温度も冷えていった。
禁忌の温度
なぜ隠しておくほど熱くなるのか。答えはない。ただ 隠していなければ淡い炎は続かない という真実だけがある。3年の恋、誰にも言えなかった香りへの渇望は僕をついに吐かせた。そして吐き出した瞬間、愛は残り香だけを残して生きていた温もりを失った。
最後の問い
あなたは今、どんな香りを隠しているだろう。そしてその香りを明かす瞬間、あなたの愛も冷めるだろうか。それとも、とても静かに再び灯り始めるだろうか。