03:17、洗面所の明かりの下で
「ちょっと休ませてもらうね。」 ジスはベッド脇で膝をつき、うなだれる。眠るドンホの息づかいを確かめてから、そっと指を伸ばした。裏返ったスマホ。画面が灯る瞬間、漆黒の瞳に火が灯る。
「ジョンヒョク」 たった一言、3時間前のメッセージ。その下には消された痕跡だけが残る。
削除されたメッセージ 2件。
たった一つの名前が揺らす前哨戦
ジョンヒョク。ドンホはその名を聞いたことがない。けれどジスの瞳が揺れる理由が、なぜかわかる気がする。
「今日もめちゃくちゃ綺麗だった」という言葉の陰に潜む見知らぬ呼び名。あるいは「今日も」という言葉が孕む、繰り返しのニュアンス。
なぜ私はこれを見てしまったのだろう? 眠る君の指を動かすだけでも罪深いのに、なぜわざわざ指紋まで合わせて、君の本音を盗み見たのだろう?
ケース2:ハウンとミンウ
「ハウン」は結婚を控えた花嫁。両家の顔合わせで慌ただしい夜、ミンウは彼女の隣でノートPCを開いた。「Aチーム営業」というフォルダの奥に見つけたメモ。
『ミンウに隠れて会った日』というタイトルの下に、●●●ホテル、19:30、そして「服は脱がなかったけど……」という一文が残っていた。
まだ開けていないプレゼント。でも包装紙が破れた瞬間、中身はもう役に立たなくなる。
なぜ私たちは開けてしまうのか
心理学者ウィニコットは「透明性の幻想」を語る。相手のすべてを知れば関係が安全になるという誤解。でも実際は知れば知るほど不安が肥大する。
スマホは今や私の中のブラックボックス。開かなければ一生の好奇心で済むが、開ければ一生の後悔で終わる。
03:22、再びベッドへ
ジスはドンホの腕の下にそっと潜り込む。スマホは元通りに戻し、画面は暗くなった。でも目を閉じた瞬間、その一行が後頭部に突き刺さる。
「ジョンヒョク」ではなく「ジョンヒョクくん」だったのだろうか。それとも「ジョンヒョクさん」だったのだろうか。ピリオドの代わりに疑問符だったのだろうか。もしかして絵文字一つだったのだろうか。
最後の問い
眠っている間に届いた一行のメッセージ。そのたった一語が恋人の素顔を曝け出すのなら、あなたは本当に「何もなかった」として生きていけるだろうか。
それとも「何もなかった」ふりを選ぶことが、愛なのだろうか。