"今日もあなたが一番先に浮かんだよ"
夜9時17分。LINEが鳴った。
今日もあなたが一番先に浮かんだよ
送信者:「キム・ヒョンジュン課長」。プロフィール写真は奥さんが撮ったらしい家族旅行スナップ。ふたりの子どもを高々と抱えて笑う男性。
私はロック画面を4秒だけ見て消し、また3秒見た。指が震えた。なぜ震えるのか、自分でも分からなかった。
これっておかしいよね。
欲望の解剖
「彼が欲しいのは私じゃなく、私が反応する瞬間なんだ」
あの日から私は痕跡調査に没頭した。会社のグループLINE、同好会チャット、フィードを隅から隅まで。彼の「今日も」が私だけに来ているのか確かめるため。
結論は惨憺たるものだった。
- 「今日も」は私だけ
- 反応速度は私が一番速く、一番長文
- あとは既読スルーか、ハート2つで終わり
しかし、さらに深い発見があった。彼は私の反応を操ることに快感を覚えていたのだ。短く送ればどれだけ焦るか、長く送ればどれだけ歓喜するか、実験するような痕跡が歴然としていた。
彼の「私だけ」は結局、権力の尺度。私が彼の指先でどれだけ踊るか。
知恵のもがき、ユジンの覚醒
知恵、31歳、ブランドマーケター
知恵は飲み会の帰り、コンビニ前で初めて出会った。ヒョンジュンが「少し酔い覚まそう」と缶コーヒーを差し出した。奥さんの写真がプリントされたタンブラーを持っていた。
君、瞳がすごく綺麗だよね。最近めっきり見ないだろ?
知恵は心で吹き出した。綺麗な瞳なんてごまんといるよ。
しかし翌朝、ヒョンジュンはまたコンビニ前に立っていた。缶コーヒーを差し出し「今日も綺麗だね」。
繰り返しは十日続いた。けれど知恵は一度も家に持ち帰らなかった。いつも受け取ったふりをして社内のゴミ箱へ捨てた。
十一日目、ヒョンジュンがおずおずと聞いた。
君は…僕に興味ないの?
知恵は微笑みながら答えた。
ええ、すごくありますよ。でも缶コーヒーじゃなくて、本気が欲しいんです。
その日からヒョンジュンは消えた。知恵のスマホはもう震えなかった。
私が断ると面白くなくなったんだな。
ユジン、29歳、新入デザイナー
ユジンは違った。彼からの最初の「今日も」を受け取った瞬間、心臓が破裂しそうに跳ねた。
先輩がそう言うんです…私だけ特別みたいで…😭
親友グループLINEに書き込んだ。反応は冷淡だった。
- 「君だけじゃないよ」
- 「それ3年前に私も言われた」
- 「早く抜け出して」
でもユジンは聞かなかった。彼の1対1相談係になった。妻との不和、子どもの塾問題、会社の政治まで。ユジンは全てを受け止める幽霊カウンセラーになった。
一か月後、ユジンは奥さんから電話を受けた。主人が最近…誰に一番依存しているか知ってます?
ユジンは電話を切り、トイレで泣いた。自分が「特別」なのではなく、妻に言えない彼のゴミ箱に過ぎなかったことに気づいた。
なぜ私たちはこれに惹かれるのか
「タブーは常に権力を孕む」
人は本能的に禁断のものに惹かれる。既婚者は妻がいる「他人の領土」。そこに一歩踏み入れただけで「選ばれた」気分になる。
でもそれは錯覚だ。既婚者は決してこちらへ来ない。ただ私が反応する感情刺激を狩っているだけ。
「私だけ」という幻想は、実は「私が一番反応する」というデータの犠牲者。
ゲームはシンプル。
- 私を特別に見せる
- 私は特別を証明しようとする
- 彼はさらに特別な反応を求める
- 最終的に私は数字、統計に変わる
この全ては「私は犠牲者じゃない」という妄想の中で起きている。
最後の問い
今この瞬間、あなたのスマホが鳴った。誰かが「今日もあなたが浮かんだよ」と言う。
すぐに返信しようとする指が、本当にあなた自身のものか。それとも彼の権力ゲームに合わせた自動反射神経なのか。
一人静かに確認してみてほしい。