鉄のドアノブが軋んで回った。地下へ降りる階段の先、誰にも知られていない倉庫の片隅。
敏洙が先に降りて、手の甲で唯一の電球を覆う。「ごめんって言葉は、今日に限って禁止。」
恵智は答えずに、影の中へ一歩踏み込んだ。母が振りまいていた香水の匂いを避けて、全身を包む埃の匂いが鼻先をくすぐった。ドアが閉まる音とともに残ったのは二つの鼓動、そして緑色のカビの上に舞う細かい埃だけ。
反対は決して燃え尽きない導火線
父はテーブルをバンと叩いて言った。「あいつはお前を堕落させる。」 母は涙でバスルームのドアを閉めた。そうなるたび恵智は写真の中の敏洙の瞳だけを思い浮かべた。
禁はねっとりとした蜂蜜のように甘かった。 毎回拒絶されるほど、二人の間で何かが熟成していった。誰かに止められた分だけ、鼓動はより大きく鳴った。
地下の甘い沈黙
恵智は二十三歳、裕福な家の末っ子、音大ピアノ科卒業間近。 敏洙は三十歳、美大卒業後求職中、梨泰院の奥の路地の雑居屋の屋根裏。
「俺たちの葛藤は、お前と俺の距離だ。」 「だからもっと近づかなきゃ。」
二人の密室は敏洙の住む屋根裏の下、閉鎖された地下二階。不動産屋のビルの地下。持ち主の忘れた鉄のハンモックと油染みたランタンだけが証拠だった。
ランタンの光は壁のカビを緑に染め、吐息さえ湿気に変えた。毎週水曜の夜明け、ハンモックが軋むたびに埃が降り積もり、その埃さえお互いに張りついて離れなかった。
「お母さんが捜してるって?」 「だから俺たちはここにいるんだ。」
闇の中で浮かぶシルエット
別のケースもあった。 瑞珍、二十八歳、大手企業マーケター。父の目を避けて近所のジムの地下テニスコートを借りた。電球一つのコートの上で年下のトレーナーと息を交わした。
マットの上に横たわって君を隠せば、誰にもバレない。 父は「性的逸脱」を防ぐとチームリーダーまで電話した。しかし父に止められるほど、瑞珍はトレーナーの肩に顔を埋めて深いため息をついた。
スニーカーの紐を結びながら呟いた。
禁は私のための黒いリボンだった。
禁を越える感覚、なぜこれほど甘いのか
敏洙が言った。
「俺がお前を隠すほど、お前は輝く。不思議だろ?」
恵智は答えずに敏洙の手首にそっと口づけした。吐息が触れた瞬間、敏洙は笑みを呑み込んだ。
禁は抑圧された欲望を拡大鏡のように大きくする。 誰かに止められるたびに、脳はその分だけドーパミンを青い炎で噴出する。その炎に触れた瞬間、恵智は自分ではない誰かになった気がした。
禁を越えるときの快感は、 実は自分を守ってくれた柵を壊す快感なんだ。 その柵が愛という名で築かれていたなら、 壊す手には温かい傷が残る。
その傷さえ二人だけの秘密言葉になった。敏洙の肩に残る恵智の軽い痕は、母に見られぬ夜明けのスタンプのように闇の中で瞬いた。
その夜明け、恵智はバルコニーの手すりに腰掛けていた。敏洙が洗濯物を干しながら尋ねた。
「もし喧嘩したら?」 「ならここで終わりにする。」
恵智は首を振った。
「違う、また上がってドアを閉める。それの方が怖い。」
空を仰ぐと闇の中の星が刻一刻と揺れていた。ドアの前のわずかな隙間だけで、鼓動は張り裂けんばかりに鳴った。
ドアを閉めてしまえば、俺たちはもう母の娘でも父の息子でもなく、ただお互いの吐息だけが残るから。