「なんでここにいるの?」と聞きたかった
画面の奥に君の視線が浮かんだ瞬間、指がスマホを強く握りしめた。匿名チャットルーム『夜の味』——ソヒが“ゴミアプリ”と公言して嫌悪していた場所。そこで君と出逢った。ニックネームは「4AMレモン」、プロフィール写真は君が愛用していたヴィンテージフィルター。瞬きひとつせずに私を見つめる君がいた。
無意識に送ったハートは0.8秒で取り消した。 まだ気づかれていなければ。
隠された身体の居場所
どうして私たちは禁じられた窓の向こうを覗くのだろう。匿名というマントの裏側では、誰もが人ではなく欲望の塊に変わる。友だちに行かせない路地、恋人に気づかれてはいけない時間帯、親に見つかったら終わりの検索ワード——あらゆるタブーは反射板となって、私たちの内なる影を四倍に拡大する。
このアプリは単なる道具ではなく、関係の裏口だ。
- 彼氏に隠れてトークルームに潜るジェインは、実は関係が単調だからではなく、愛することそのものに飽きてしまったからだ。
- 相手にはまだ靴も脱がせていないのに、画面越しの見知らぬ者に最も陰湿な想像まで語るスジンは、現実の関係の重さを一時的に降ろしたいだけだ。
タブーはいつだって、それだけの空腹を生む。
ふたつのケース
1) ユナとミンソ:友だちの腹の中に潜む黒い火種
高校の同級生ユナは、ミンソに涙ながらに誓った。 「このアプリ使ってるヤツって本当にみじめ。私だけを信じて。」
しかし一か月後、ミンソは同じアプリでユナを目撃した——ニックネーム「ミルクティ味」。プロフィールを見た途端、間違いなくユナだった:3年前の旅行で撮った写真、猫の肉球の模様のネックレス、指の入れ墨まで。
ミンソは数日を過ごした。ブロックすべきか、メッセージを送るべきか。最後に選んだのは「となりの覗き見」。彼女はユナのハートを受け取りながら無視した。
しかしお互いの存在を知った翌日、学校のグラウンドで出逢ったふたりは、ひと言も口がきけなかった。
ミンソは胸中で呟いた。
あなたも知ってる。私がここにいること。私たちがお互いを隠さなければならない理由を。
2) ジフンとドヒョン:執着の温度差
大学院の同期ジフンは、先輩ドヒョンから聞いた。 「僕には理想のタイプがいてね。君とはぴったり合わないんだ。」
だからジフンはアプリを入れた。ドヒョンに見られていないという確信のもと、ジフンは本気でドヒョンの好みを真似た。ブラックTシャツの写真、猫が好きだというプロフィール文、さらには「申年ISTP」まで。
そしてドヒョンがハートを押した。
ジフンは冷や汗をかいた。これは勝利じゃなく敗北だ。
ドヒョンは短く尋ねた。 「顔を見るまでは1メートル距離を取ろうか?」
ジフンは途方に暮れた。距離を置くことこそがもともとの彼の恋愛スタイルだったのに、それさえも今は見知らぬものに感じられた。
ドヒョンは知らなかった。画面の向こうの相手が、まさに自分が撒いた氷塊だということを。
タブーは私たちを元の場所へ連れ戻す
フロイトは“アンカニー”について語った。なじみのものが見知らぬものに感じられるときに生じる不安。匿名アプリはこの不安を最大限に増幅させる。私たちは誰かを幽霊のように探し、その幽霊が自分の知っている誰かかもしれないという恐怖を目の当たりにする。
このタブーの興味深い点は、結局私たちを関係の本質へと回帰させることだ。誰を騙し、視線を避けても、最後にはその人と向き合わなければならない。そしてそのとき、欲望ではなく関係の温度を感じる。熱くも冷たくもない、ぬるま湯のような重さ。
まなざしの終わりで
あなたももしかして、友だちに見せられない窓を開けたことがあるだろうか。そしてその窓の向こうで、思いもよらぬ視線があなたを見つめていたとしたら。
その瞬間、あなたは誰だったのか——引きずられそうな欲望なのか、それともその欲望を隠そうとする今までの自分なのか。
そして今、あなたは誰を待っているのだろう。