肩に氷塊が降りかかった瞬間
クラブのトイレの鏡に映るジス。瞼に紫の影、吐息すら煙草の香りに染まっていた。出ようとしたそのとき、彼女の指先が首筋を掠めた。冷たさではなかった。パチパチと燃える火の粉が肌を舐めるような感覚だった。
スマホが鳴った。『ヨリン♡』。プロフィール写真の彼女は温かい陽だまりの中で微笑んでいる。
少し遅くなる とメッセージを送り、再び見上げたジスの瞳。なぜ今すぐ連れて帰りたいのか、なぜこの不吉さが甘美なのか、答えは見つからなかった。
ワインのように煮え立つ渇望
「いい人」という形容詞が息の根を止める日々が多かった。
ヨリンは安全だった。キスする前に許可を取り、寝ている頭をそっと受け止め、二日酔いのスープを作る手つきに信頼が宿っていた。
しかしその信頼の中で、欲望はじわじわと死んでいった。いつも同じ姿勢、同じ匂い、同じ会話。一方、ジスは危険な磁石だった。僕が何を望んでいるのか知らないふり、あるいは知っているふりでつま先で心臓を踏みつけた。彼女といるたび、見知らぬ誰かが僕の中で息を荒らげていた。
自分を破壊するかもしれない、だからこそ熱くなる不安。
実話のように綴られた二人の目撃者
ケース1 ― ユリ、32歳・広告代理
チャットルームに上がったミンウのプロフィール写真、まるで違法賭博場のような暗い背景に一筋の光。彼は安心って何なのか知らない人だった。
初対面は午後9時の屋上。彼は私の手首を掴み、弁当のように包まれた暴力を手渡した。
- ユリ:どうしてそんなに震えてるの?
- ミンウ:震えるのがいいじゃない。生きてる証拠だよ。
赤ワインのようにすぐに熟成した関係。1か月で会社の控室でキス、2か月でエレベーターで服の襟を引き裂いた。3か月目に彼がやってきた日、ユリは爪先まで震えながら「私と一緒に暮らそう」と言った。ミンウは笑った。
「俺はお前が安心する瞬間を見たいんだ」
その朝、ユリは鍵をかけて泣いた。
ケース2 ― ヒョンス、29歳・マーケター
三回のお見合い。ヨジンは銀行員、両親が喜ぶ職業。初対面から「うちは犬飼ってるの」と愛想を振りまいた。一週間も経たずにお互いの家を行き来するようになった。
土曜の焼肉屋、日曜の映画館、水曜の買い物で冷蔵庫を埋める。それでもヒョンスは毎晩夢で「別の女」を見た。
黒のツーピースに髪をなびかせて突進してくる女。彼女は視線を一度もくれずに通り過ぎた。朝になるとヨジンは温かい牛骨スープを出した。なぜ冷たい人が熱を残すのか、答えは出なかった。
赤い砂漠に蒔いた白い砂糖
幼い頃、父は酔って家を壊す人だった。母はそんな父を最後まで離さなかった。だから僕は痛みこそ愛の証だと信じてきた。穏やかな関係は本物の愛じゃないと。
心理学書はこれを「トラウマボンディング」と呼ぶ。傷つく確率の高い人により惹かれる現象。でももっと深い理由があった。
不安はドーパミンを爆発させる。恋愛初期の不確実性は薬物中毒のように報酬回路を刺激する。安心できる女はすぐ覚醒感を下げるが、狂おしく惹かれる女は「今度はうまくいくか?」と無限に問いかける。
脳はオーガズムそのものではなく、オーガズムへの旅に中毒になる。
切断された指が残した最後の問い
今この瞬間、頭に浮かぶのは誰だろう。いつも震えをくれる人か、それともその震えをなだめてくれる人か。
僕が本当に欲しいのは「愛」なのか、それとも「不安の中の自分」なのか。その問いに、僕はまだ何も答えられない。