彼女がシャワーにいる7分間――急いで、早く。 水音が響いた瞬間、画面をつけた。ロックは0409、誕生日じゃない日付。一発で解除できるくらいには、私も慣れてしまったらしい。写真アプリを開き、アルバムの一番下までスワイプ。隠しアルバムがあった。名前は“Old”。タップするとFace IDが点滅し、瞬く間に彼女との327枚の写真の向こうから、誰かのうなじが飛び込んできた。小さなシルエットだけど、私はすぐ分かった。元カノだった。消すべきすべてが生きていた。
本能が抉ったひび割れ どうして「消した」と信じていたのだろう。人は“削除”ボタンを押した瞬間、“終わり”だと信じる。機械はそう学び、私たちもそう学んだ。でも機械は、誰が消したかを覚えている。そして、消した者の指先が震えていたか、欺くような微笑を浮かべていたかまで記録している。
「もしかして、あなたも消せなかったの?」
その問いは静かに、しかし神経の末端まで抉り込んでくる。消えなかったのは写真だけじゃない。眼差し、指先、息遣い、そして彼女が元カノと過ごしたすべての呼吸が、フォルダの中に標本のように押し込められている。
それでも指が震える理由 生きているファイルは、結局のところ鏡だ。そこに立っているのは“私”ではない別の“私”だ。私がまだ奪えなかった時間、私がまだ埋められなかった隙間が、無言で揺れている。写真の中の男は、私よりもっと多くの春を彼女と迎え、もっと多くの朝を別れた。そのゆえに生きているのは“元カノ”ではなく、私の欠落だ。
沈黙の2年、フォルダ“J” ミンソは最初から言っていた。「消した」と。しかし2年経っても、一番下のフォルダ“J”は0.3GBのまま密かに生き続けた。写真はわずか7枚だけど、どれも置換不可能だった。
- 陽射しに染まるミンソの後ろ姿、髪がガラスのようにちぎれる瞬間
- 海辺で撮った動画、砂の上に影が一つ揺れる。最後にミンソが「撮らないで」と笑うけれど、誰かは撮り続ける
- 別荘で撮った写真は半分ぼやけている。手が震えたのか、涙が滲んだのか。
ある日、ミンソが眠る午前3時18分、“J”フォルダがほんの少しだけ開いていた。閉めたとき、ミンソが聞いた。
「寝ぼけて?」
「ううん、ただ確認してただけ」
「何を?」
……何でもない。
その日以降、“J”は消えた。いや、隠れた。最近削除した項目にもなく、iCloudバックアップにも痕跡がなかった。どこを探しても見つからなかった。ミンソが消したのではなく、誰かが「私が消した」と演出したのだ。
第二の話:ジスが見せたかった気持ち ジスは逆にフォルダを隠さなかった。“Ex”という名前でホーム画面にそのまま置いておいた。
「どうして消さないの?」
「だって、あるじゃん。あって何が悪いの?」
彼女は元カノとのLINEも切らなかった。“既読”にしなかっただけ。
2022年10月11日01:15――『夜通しあなたのことを想ってる』 2023年3月2日23:48――『今でも私といたくない?』 2023年8月9日04:03――『大丈夫、私は相変わらずあなたが好き』
ジスは毎晩そのメッセージを読んだ。そして既読にしなかった。
「どんな楽しみなの?」
「読めば読むほど、私が生きてるって感じるの。あなたは?」
「私はここにいるじゃん。あなたと一緒に」
その夜、ジスはついに元カノに返信した。とても短く。
「元気でね」
たった3文字だったけれど、“Ex”フォルダはその日から0バイトになった。ジスは泣いた。涙は元カノを消したためではなく、こんなにも自分が誰かを消してきたことに気づいた涙だった。