「これで決着。あなたが望んでいた一撃よ。」
小瓶に入った情事の写真。下駄箱の上段に隠しておいたそれを震える手で取り出した。ライトの下では、女の後ろ姿がピンぼけでも気にならない。夫の手が彼女の腰に触れている瞬間だけが鮮明だった。 私は写真を、夫の朝のコーヒーカップの横にそっと置いた。昨夜まであの唇が同じ女の耳を舐めていたことを知りながら。
一瞬の快感、その後の空虚
証拠を握ることは快感だった。つまり、私を裏切ったあなたが今こそ土下座する瞬間を頭の中で何百回もシミュレーションしていたのだ。 けれど、夫が瞬きしながら写真を見下ろしたとき、私の体から漏れたのは満足ではなく見知らぬ悲鳴だった。
なぜ、私の方がこんなに苦しいの?
その問いはすでに血のように広がっていった。手首がチクチクし、視界が揺れた。それは計画になかった感情、あるいは私の中で息を殺していたもうひとつの欲望が噴き出たせいだった。
ミンソ、29歳――宿の鍵を握った日
ミンソは一週間前まで、結婚3周年のプレゼントとして夫に贈るスカイラウンジの予約チケットを握りしめていた。 しかし23:42、スカイラウンジのプライベートルームの防犯カメラ映像に映っていたのは夫の代わりに親友ジウンだった。ジウンの足の指が夫の太ももの上に乗っていた。 ミンソは映像をダウンロードしてUSBに入れた。そして結婚記念日当日、夫のスーツのポケットに忍ばせた。スーツは会社の顔合わせ用だった。 顔合わせ会場のプレゼンテーション中、プロジェクターに繋がったUSBが再生され始めた。最初は大理石の壁にぼやけた影が浮かび、やがて静かな波紋が広がった。誰もが息を呑んだ。 夫の目は白目だけになった。ミンソは椅子に座ったまま、自分の体が砕ける音を聞いた。彼女が望んでいたのは夫の土下座だったのに、むしろ自分の胸が虚無に吸い込まれる音だった。
ヒョンウ、35歳――エレベーター防犯カメラ編集版の前で
ヒョンウは妻が毎週水曜日、同じ時間帯にエレベーターに乗り、7階に住む後輩ドンハを訪ねていることを知った。防犯カメラには妻がドンハの首に腕を回して引き寄せる瞬間が1秒未満で映っていた。 ヒョンウはその0.8秒を延ばし続け、8秒、80秒にした。映像は過激な場面ではなかったが、ふたりの唇が離れない刹那の沈黙だけで血の味がした。 彼は映像をクリップに編集し、妻の誕生日パーティーでプロジェクターで流した。誕生日ケーキの蝋燭が消えるより早く、壁に7.8秒が無限ループした。 妻は蝋燭を消してからその場面を見た。しかしヒョンウの目に映ったのは妻の涙ではなく、手に持ったケーキサーバーの煌めきだった。 妻はサーバーを離さなかった。代わりにそのサーバーでヒョンウの左頬を打った。蝋燭のロウがケーキに流れ落ち、ヒョンウの頬からは血が出た。 映像は繰り返し流れたが、当事者はヒョンウだった。彼はその夜、浴室の鏡で見たのは自分の目から血の出る夢だった。
タブーの奥にある憧憬
私たちが証拠を握る瞬間、それは単なる真実ではなく自分に向けられた刃になる。なぜなら、証拠は相手を崩すためでなく、自らの内に秘めた欲望を呼び覚ます道具だからだ。 心理学的に、裏切りを目撃した人は三種の欲望に囚われる。第一が復讐の歓び、第二が自己無疵の道徳的優越感、第三が最も陰湿な自己破滅の快感だ。 私たちは復讐と優越感だけを考えがちだが、その影に自分も一緒に砕けたい衝動が潜んでいる。証拠を曝け出す瞬間、私もまたこの関係の亡骸の上に倒れ込みたいという欲望が蠢く。
私たち全員の隠された共犯
あなたを崩す代わりに、なぜ私は魂まで引き裂こうとしたのか?
その問いの果てに立つ私たちは、結局証拠に手を伸ばしたのは単なる真実のためでなく、すでに壊れた自分を確認するためだったのかもしれない。 あなたも一度はその果てを覗いたことがあるだろうか。