恋愛心理研究所 愛と恋愛の心理学

ワンルーム男のベッドの上、温もりは短く虚無だけが深かった

17回のすげ替えの果てに残ったのは冷めていくベッドの片隅と「次へ」という欺瞞の味。ワンルーム男・ミンジェが怖れたのは空白だった。

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ワンルーム男のベッドの上、温もりは短く虚無だけが深かった

「布団をかけておこうか?」 彼女が言った。午前3時47分、ミンジェは目を閉じては開けた。石けんの香りと煙草の煙が混じる24畳ワンルーム。ベッドサイドのスタンドの光が彼女の眉毛を銀白色に染めた。 スキンシップのあとの初めての沈黙は、もう慣れなければならない静けさだった。 彼女は歯を食いしばって起き上がった。下着をひとつひとつ拾いながら「暗証番号が変わったから…」と呟いた。ミンジェは答えなかった。 エレベーターが降りていく振動が爪先まで這い上がった。扉が閉まる音。そして残響のように残る、がらんとしたベッドの片側の温もり。冷めていく速度は次第に速くなった。


君が去ったあと、僕は君と僕自身を同時に失った

ミンジェは35歳。名札にはまだ「チーム長」と書かれているが、会社ではすでに「あの人」と呼ばれている。年収も、家も、身長も不足はない。不足しているのは「一緒にいること」だった。 最初はそれでもよかった。毎週違う女の香りを嗅ぐだけで、世界は新鮮だった。 あの日もアプリで26歳のデザイナー・ジスに出会った。ワイン二本とベッド一枚。お互いの悩みを尋ねなかった理由は明らかだった。朝になれば誰が先に出ていくかを探り合わなければならなかったから。 ジスが帰ったあと、ミンジェはぼんやりと天井を見上げた。 僕はこの瞬間のために生きてきたのか。 どれだけ多くの体を重ねたか数えてみると17人。そのうち12人の名前も思い出せなかった。それぞれの吐息だけが残り、それさえ今は余韻すらかすかだ。


体は増えても心は空っぽ、その空白を満たした欺瞞

すげ替えはコラーゲン注射のように見えた。短期間でハリを取り戻すが、結局はたるむしかない根本的な限界。 ミンジェは知っていた。それでも手を伸ばした。次へ、次へ、次へ。 「今度は違うはずだ。」 嘘は毎回同じだった。彼女たちとの最後のキスは、いつもキスではなく、顔を背ける方向だった。


実話のように聞こえる物語1. ユリと紙飛行機

ユリは29歳の高校美術教師だった。ミンジェは知ったふりをしなかった。ただ彼女の手の甲に付いた粉筆の香りが恋しかったからだ。 二人は11回会った。10回目までユリは「こういう関係、続けられるかも」と言っていた。 11回目の夜。ユリはミンジェの胸に耳を当てて言った。 私はいつも紙飛行機を折るの。欠片欠片に翼を付けていくうちに、いつか飛んでいくでしょう、って。 翌朝、ユリが帰ったあとミンジェは机の上に折られた紙を見つけた。開くと彼女が描いた鉛筆スケッチ。ミンジェの横顔だった。 絵の下に小さな一文が書かれていた。

『絵は簡単に消せても、シルエットじゃない。』 ミンジェはそのスケッチをテープで壁に貼った。毎晩帰宅すると眺めた。一ヶ月後、スケッチは日に焼けていた。 結局ミンジェは剥がして捨てた。そしてそれで気づいた。ユリが消えた理由は、絵ではなくシルエットの方だった。


実話のように聞こえる物語2. ハウンと鍵一本

ハウンは31歳のマーケターだった。初対面からハウンはミンジェの家の物をきょろきょろ見回した。洗面台の薬箱、冷蔵庫のワイン、本棚のデザイン本。 「他の誰かの痕跡を探してるの」って笑った。 ミンジェは軽い冗談で受け流した。けれどあの夜、彼女は奇妙な要求をした。 鍵をちょうだい。私の鍵とすげ替えて。あなたの家に私が来られるように。 ミンジェはしばらく無口だった。自宅に誰も置いたことがないという事実が、急に恥ずかしくなった。 言いたいことがあったけれど、駐車場に響き渡る車の警報音が彼を止めた。 一週間後、ハウンから連絡が途絶えた。メッセージも、アプリも沈黙だった。 ミンジェはひとりで鍵を回し、扉を開けた。がらんとしたリビング。そしてハウンが鍵を欲しがった理由が分かった。 鍵は扉を開けるためではなく、誰かを待てるようにする道具だった。 ハウンはミンジェに待つべき人がいないことを知って去ったのだ。


なぜ私たちはやめられないのか

心理学者たちは言う。「累積的喪失(Cumulative Loss)」という現象を。 小さな別れを繰り返すと、脳はやがて別れそのものを習慣化する。 鼻水が出ればティッシュを探すように、孤独が湧き上がれば体は自動的に「次」を探す。 でもそれは嘘だ。実際は逆だ。 小さな別れは究極的な巨大な喪失に収束する。 すげ替えは割れたガラス片の上に布をかぶせる行為。歩くことはできても、足の裏が腐っていく。 ミンジェはもう「虚無」という言葉を怖れる。ないふりをしても、ベッドの片側がへこんだ形だけは語ってくれる。


最後の一文

今夜も、あなたは空っぽのベッドの隣で「次」を探すのか、それともようやくその空白を掴んで存在を感じようとするのか。

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