「……それ、ちょっと変わってるな。何を隠してるの?」
ジュニョクはベッドの端に腰掛け、煙草をくゆらせる手を止めた。女の太ももを横切る茶色の刺青——それはただの影ではなかった。パズルのようにぎざぎざした縁取り、稲妻のように広がる枝。陽の光の下では抽象的な模様に見えても、蛍光灯の下、ベッドのシーツの上では何かを執拗に呑み込んでいた。
「隠してるわけじゃない。ただ、綺麗だから」
ハヨンは爪先で煙草の吸い殻を潰した。笑みの欠けた声。彼女はいつもそう言った。*綺麗だから。*でもジュニョクは見てしまった。刺青の始まる部分から、たまに肌色と茶色の間から滲み出す漆黒の傷跡を。
あの夜、刺青の裏に潜む匂い
ジュニョクは最初は知らなかった。ハヨンが服を脱ぐたびに視線を逸らす癖、明かりの消えた部屋でしか脚を伸ばせないこと。彼女の指はいつも刺青の上を撫でていた。確かめるように。何を確かめているのか、誰も訊かなかった。ただそのタッチがセクシュアルに読めただけ。欲望はここから始まった。何も知らないことが最大のファンタジーだった。茶色の刺青はただの「見えない何か」**の境界線を作り出し、その向こうを掻き回したい衝動は雪だるま式に膨れ上がった。
ジュニョクは刺青の下にあるものを想像した。男の名前?それとも歳をとって薄れた愛の痕跡?それは単なる好奇心ではなかった。*他人の傷を抉りたい欲望。*その欲望は「知れば知るほどより深く痛む」というタブーの掟と噛み合った。それでもジュニョクは知ってしまって尋ねた。
彼女を掴む過去の名
「これ……誰の名前?」
2023年2月、済州島のモーテル。ハヨンがシャワーに入った隙、ジュニョクはそっとベッド脇の引き出しを開けた。そこには古びた日記帳が一冊あった。1ページ目には「リンゴの木の下 2018.7.12」と書かれていた。
今日、また咲かせた。今度こそ本当に終わりにしよう。鮮やかな文字の上にインクをぐっぐっと重ねた。ミンスを消すことにした。二度とその名がこの体に残らないように。
ミンス。28文字の説明はなかった。ただ1ページが破られていて、その隙間に"do not forgive"という文が欠片のように散らばっていた。
ジュニョクは一瞬、息を止めた。*これは単なる日記じゃない。*これは「証拠」だった。
ハヨンが戻ってきた。タオルで髪を拭いていた彼女は、ジュニョクが何を見つけたか即座に悟った。瞳が揺れた。恐怖に怯えながら、それでいて永遠に葬れない恐ろしさ。
「……読んだ?」
ジュニョクは頷いた。ハヨンが近づき、ジュニョクの手から日記帳を奪い取った。そして刺青の上に手を置いた。
「ここにいる。まだ生きてる」
それを呼ぶ、傷跡の囁き
なぜ私たちは傷ついた者の刺青をより深く見つめてしまうのか? 心理学者クララ・モンローは言った。*人は他人のトラウマを見ながら自分の空腹を満たす。*しかしその空腹は決して満たされない。なぜなら、「秘密」は消えるときに初めて完全になるから。
ハヨンの刺青はその秘密を「隠す」のではなく「誤魔化す」装置だった。彼女はミンスという名が消えないことを知りながら、「見えなく」しようとした。でもジュニョクはそれを見抜いてしまい、その瞬間からハヨンの体は別の「証拠」になった。
彼女はミンスを忘れたことはなかった。毎晩、刺青が膨らんでいくような感覚がした。*生き物のように。*彼女は刺青に触れるたび「殺害」という言葉を反芻した。ミンスを、そして恥ずかしい自分を。
ジュニョクは彼女を愛していた。でもその愛はもう「秘密」を一つ増やすことになった。彼女を掴みたかった。*その秘密の上に塗り替えたかった。*その欲望は本能だった。誰かの過去を消したい、そしてその空白を自分で埋めたい。
刺青の下、まだ終わらぬ物語
2024年4月、ソウルのあるピアスショップ。ジュニョクはハヨンのいない空の椅子に座っていた。彼女は昨夜、去っていった。刺青の上に新しい絵を描くと言って。「茶色」を超える色で。
ジュニョクは今、知った。誰もミンスを消せないこと。でも同時に、**「消そうとする試み」**は続いていくこと。ハヨンという名も、ジュニョクという欲望も、それらすべてが刺青のように刻まれていくこと。
あなたが他人の傷に触れたとき、果たして自分のどんな欲望を叫んでいるのだろうか?