ドアが閉まる0.2秒
「今日は本当に楽しかったです」
ユジンはそう言いながら、すでにバッグの中にあったスマホを取り出した。画面が灯る明かりが彼女の顎先をくすぐる。僕はまだドアの前に立ち尽くしていて、ユジンはエレベーターのボタンを2回連打していた。
2人の間は1.5メートル。この距離は初デートの最後の礼儀であり、同時に僕たちを永遠に隔てる壁でもあった。
ドアが開くと、彼女は振り返りもしなかった。
欲望の残り香
「何が問題だったんだ?笑顔?香水の匂い?それともレジで財布を後ろポケットから出したのを見られたのか?」
僕たちはその問いを終わらせることができない。一度きりの出会いが終わった後も、数ヶ月、数年経っても舌先が触れ合った感触や指が掠めた皮膚の温度を反芻しながら、何が間違っていたのか連鎖分析する。
それは単なるミス探しじゃない。
「なぜ振られたのか分かれば、次は回避できるか?」
最初から僕たちは捨てられる覚悟をしていた。だから目が合った瞬間さえ、「この人もいつか僕を去っていく」と確信が頭を巡る。恋愛初期のすべての微笑みは、実はその終わりを漠然と練習する芝居にすぎない。
スンホンの鏡
スンホンは31歳、広告会社のアートディレクター。彼が覚えている初デートは4月19日午後7時、梨泰院の『プレイスミン』で始まった。相手はモデルエージェンシーで働くジア。
4杯目のグラスを空にした頃、ジアが腕を伸ばしてスンホンの手の甲をトントン2回叩いた。
「これは好サインだ」
スンホンは胸中で計算した。その瞬間、ジアの瞳がスマホの通知を反射して金色に瞬いた。彼女は画面をちらりと確認して微笑んだ。
「誰に返信してるの?」
会計が来た時、ジアが先にカードを出しながら言った。
- 「私が払います」
- 「えっ、いえ僕が—」
- 「次回おごってください」
次回。 その言葉は未来を約束する一方で、現在を一定期間延長する装置だった。
外に出た時、スンホンはジアの手を取ろうとしてやめた。ジアはタクシーを拾いながら、最後にもう一度スンホンの顔をじっと眺めた。ドアが閉まり、窓越しにジアは知らない番号に電話をかけていた。
スンホンはそれを地下鉄の駅まで過剰に覚えていた。
1ヶ月後、スンホンは偶然ジアのSNSを見つけた。写真の中、彼女の隣にいる男はあの夜ジアが電話を受けた番号の主だった。
未来を盗む瞬間
僕たちは初対面で誰かの未来を盗む。
相手が明日どんな香水をつけるか、どんなカフェに立ち寄るか、誰と眠るか——それらをすべて推し量るのは残酷な特権だ。
実際には何も分からないけれど、「彼は僕を選ぶだろう」 あるいは 「僕は彼女から離れていくだろう」 という確信1つで生きていく。
心理学者たちはこれを「先行的拒絶連鎖」と呼ぶ。初デートで感じた微細な不協和、香りの温度差、目が合うタイミングの0.1秒のズレ——それらすべてが脳内に積み重なり、「僕はすぐに捨てられるだろう」という結論を先回りして出す。
だから僕たちは恋する前に恋を終わらせる練習をする。
地下鉄ホームの君
今この瞬間、君は家に帰ってカウントダウンを始める。
「何を思いながら帰ったんだろう?」 「僕が最後にしたジョーク、つまんなかったかな?」 「キスしておけばよかった?」
ドアが閉まる0.2秒の間に、君はすでに3年後を想像していた。結婚式の写真の前で笑う2人。いや、より現実的なシナリオ——3週間後、彼女が「友達として会いましょう」とメッセージを送る。
君はそれを先に覚悟していたから、実際にメッセージが来てもさほど驚かない。だからさらに惨めだ。
最後の問い
初デートが終わりドアが閉まる瞬間、君は相手を愛していたのか?
それともただ振られないように必死であがき続けていただけなのか?