彼女はドアの前に立っていた。手にしたダンボールの上に白い左手が乗っている。漆黒のマニキュアは、僕が最後に見たままの色だった。ベッドサイドのテーブルに置き去りにされた指輪のように、いまだ輝きを失っていない。
廊下のハロゲン灯がひとつ、またひとつと消えていくたび、僕たちの影は伸びていった。
去年の12月、雪がウィンドウにぶつかる夜。彼女はこう言った。
「もう終わりにしよう。」
僕は返事の代わりに唾を飲み込んだ。その夜、僕たちは互いの吐息に鋭い何かを孕ませた。結局倒れたのは「愛」で、生き残ったのは「別れの失敗」だった。
あれから僕は二つの時間を生きている。ひとつは彼女を終わらせようとした時間。もうひとつは彼女を手放せなかった時間。
隣の駐車場に赤い軽自動車が停まった。ドアを閉める音、トランクが開く音、ガラス瓶がぶつかる音。
四歩。それだけの距離なら、僕の鼓動が聞こえる。もう逃げ場のない距離。
「引っ越してきたみたいだね。」
彼女が言った。廊下の灯りの下で、僕たちの影は二股に分かれた。まだ彼女を求める僕と、彼女を離せない僕。
ドアの前で、僕たちは沈黙の果てに立った。
「デリバリーなんだけど……あ、違うかな?」
紙袋を抱えた彼女。トッポギの匂いが廊下を満たす。彼女はいまだにトッポギを冷まして食べられない。僕たちが一緒に食べていたときと同じように。
「あなたの部屋は302だったよね。301は……」
目が合った瞬間、彼女の瞳に小さな地震が起きた。去年の12月、僕が彼女を訪ねたときと同じ表情だった。
「あ、そっか。隣同士だね。」
彼女はドアを閉めた。でもエレベーター前で再び出くわした。7秒、扉が閉まるまでの時間。
「まだ持ってるの?」
「何を?」
「私がくれた指輪。」
僕は知らないふりをした。でも彼女は知っていた。僕がいまだにその指輪をキーホルダーに付けていることを。
鍵一本と指輪一つ。扉を開けるたびに金属が金属をこする音。
隣に住むスンウがやってきた。大学院のサークルの後輩だった。彼は昨夜、防犯カメラを調べて見つけたらしい。
「2時47分。ユナさんがうちの玄関前に立ってた。3分間、何もせずにただ立ってた。」
画面の中の彼女。手に小さな平たいものを握っている。もしかしたら彼女も僕を終わらせたかったのだろうか。それとも、僕を終わらせられなかった自分を終わらせたかったのだろうか。
愛とは相手を完全に自分のものにしようとする欲望。欲望が極端に行き着くと、所有の最終形である〈消滅〉へと変わる。
元恋人が隣に越してきたことは、愛の亡霊が帰ってくるようなものだった。僕たちはお互いを終わらせたかった瞬間の温度を忘れられない。なぜなら、その瞬間だけが僕たちにとって本当に大切だった時間だから。
今でも僕は、彼女がドアの前に立っていないかと恐れる。そして同時に待っている。ドアノブにかかった指輪を撫でながら。
もしかしたら僕がいちばん怖れているのは、彼女が再びドアを叩くことではない。彼女が二度と来ないことなのかもしれない。
誰かがドアを叩く。トン、トン。二度。
僕は鍵を出して、キーホルダーから指輪を外す。金属が冷えるまで手の中で握りしめて、ドアを開ける。廊下は空っぽだった。代わりに床にトッポギの紙袋が置いてある。匂いがドアの隙間から染み込んでくる。
袋の上に付箋。
届け先を間違えたみたいです。302号室
僕は袋を持って、302号室の前に置く。ドアの前で少しだけ息を整える。ダンボールがいまだに廊下の片隅に置かれている。彼女がいまだにトッポギを冷まして食べられない理由を、僕は知っている。
僕たちはお互いを終わらせたかった夜を覚えている。鋭い吐息に互いの終わりが結ばれた瞬間を。
ドアを閉めれば、廊下は再び静けさに包まれる。トッポギの匂いとともに、生き残った愛の残骸が徐々に冷めていく。
僕はいまだにその指輪をキーホルダーに付けている。ドアを開けるたびに金属が金属をこする。その音が、僕たちの終われなかった別れを今でも語り続けている。