恋愛心理研究所 愛と恋愛の心理学

30年間、あのひと言をくれない人のベッド

ベッドの端で下着のボタンを留める男―彼が「愛してる」じゃなく囁いたのは「好きだよ」。一度も聞けなかった言葉が、深部に潜り込み、性の緊張と禁忌の匂いを孕んだまま生きている物語。

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ベッドの端の言葉

冷たい午前2時17分。 チェリンはベッドの端に座り、男のうなじを見つめていた。 彼が下着のボタンを一つずつ留め上げるたび、月明かりが肌に瞬いた。 六つ目のボタンが嵌まった瞬間、チェリンは胸の中で数字を数えた。 七、八……そして口にした。

「ねえ、あなたは私のことを愛してる?」 男―ジュンス―は指を一瞬止めた。 頷いたけれど、唇は閉じたままだった。 チェリンはまぶたを伏せた。 愛してる。 その言葉はいつも二人の間で禁忌だった。 代わりにジュンスはチェリンの手首を引き寄せた。 熱い息が手の甲に触れた。 囁いた。 「好きだよ。」


舌先に絡まる滑らかな言葉

最初はただの言葉だと思った。 12歳、母がドアの前で「ご飯よ」を繰り返す時、チェリンは壁の陰で息を潜めて聞いていた。 愛してるではなかった。 16歳、初キスの夜、高校の屋上―“先輩”だったヒョンソンはチェリンの唇を奪い、耳たぶに「ありがとう」と囁いた。 おいしい空気なんてなかった。 その代わり、缶チューハイの匂いと煙草の煙が混ざった舌先が残った。 大学2年、図書館の地下ベンチ。 ヒジンはチェリンの手の甲に口づけた。 「君は私にとって特別だ。」 それでも愛してるは出てこなかった。 ヒジンは固い表情で視線を逸らした。 その夜、チェリンは洗面所の鏡の前で独り唇を重ねた。 愛してる。言葉が口の中で砕け散った。 滑らかな貝柱のように舌先に絡まっていた。

カラダで埋める夜

28歳、帰宅電車。 チェリンは車窓に映る自分の顔を見ながら思った。 今頃は誰かが口にしてくれてもいいのに。 周りのカップルたちは手際よく愛してるを交わしていた。 その言葉は彼らの息遣いのように自然だった。 その日も―今夜のジュンスのように―恋人は「好きだよ」と零した。 とても大きくて温かい「好きだよ」だった。 でもチェリンの胸は空っぽの冷蔵庫のように鳴った。 愛してるでなければダメ。 「好きだよ」と「愛してる」の間にはベッド一枚分の距離があった。 その距離を埋めるためにチェリンは先にカラダを差し出した。 シーツに刻まれた皺の上を指が滑った。 ジュンスの肩を引き寄せキスをした。 舌先で腹の奥に固まった空腹を掻いた。 胸を擦り合わせた。 愛してるは相変わらず出てこなかったけれど、熱い息で代償した。 肌に残る痕は禁忌の代わりにを刻んだ。

鍵のない扉

31歳、チェリンは自らを実験し始めた。 恋ごとに条件を付けた。 先に愛してるを言った方が負けで、負けた方が鍵を握ることにした。 でも誰も口を開かなかった。 だからチェリンが先に言った。 「愛してる。」 鏡の中のチェリンの瞳が焦点を失った。 その言葉は相手の唇からではなく、自分の喉から逆流してきた。 ジュンス―その日の恋人は素早く答えた。 「僕も愛してるよ。」 チェリンは悟った。 それは答えじゃなくて逃避だった。 聞こえないでほしいという気持ちのこもった応酬。 心理学者たちは言う。 愛してるを聞けなかった子は一生聞けない覚悟をする。 その言葉は権力の言葉であり、同時に権力を放棄した言葉でもある。 誰かに伝える瞬間、話す人は聞く人に自分の鍵を渡すことになる。 チェリンにはその鍵がなかった。 母も、父も、ヒョンソンも、ヒジンも、ジュンスも皆鍵を握っていた。 チェリンは扉の前に立ち、手を差し伸べて待つしかなかった。 扉は開かなかった。

復讐の方法

だからチェリンは復讐を選んだ。 あなたたちも受け取れないようにしよう。私が先に言わなければいいんだから。 ベッドの上でジュンスの頬を撫でた。 指先で顎の線をなぞった。 ジュンスは目を閉じた。 チェリンは唇を結んだ。 愛してるを飲み込んだ。 代わりにジュンスの胸に口づけた。 舌先で乳首を掠めた。 肌に触れるたびに欲望は禁忌に変わった。 ジュンスは呻いた。 「言って……」 チェリンは胸の奥で笑った。 言えないわ。その言葉は私だけのものにしておく。 彼女はジュンスの腰を抱きしめた。 爪先で脛を掻いた。 カラダで償った愛してるは依然として出てこなかったけれど、熱い肌と吐息で満たした

言葉の墓

37歳、チェリンは相変わらず愛してるを聞けていない。 代わりに何百回もの好きだよありがとう会いたかったを受け取った。 いつかは聞けると信じていた想いは、砂漠のオアシスのように霞んでいった。 毎晩、チェリンは目を閉じて独り言った。

「愛してる。」 口の中で言葉が砕けた。 そして目を開けると、その言葉はどこにもなかった。 現実は相変わらず静かだった。 シーツは冷たくなっていた。 その隙間は広がるばかりだった


最後の問い

あなたは愛してるを受け取ったことがあるだろうか。 その言語をカラダで学んだことがあるだろうか。 もしかしたら今この瞬間、誰かに愛してるを与えられずにいるのではないだろうか。 ベッドの端に座るあなたの指先が届く場所―そこにまだ言えない鍵が残っているかもしれない。

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