「本、好きですか?」それが君の最初で最後の言葉だった
地下鉄2号線サダン駅3番出口。君は黒いビーニーを深く被り、手にはもう冷めたアメリカーノを持っていた。私が座ると同時に君はそう聞き、私は「うん、紙の匂いにハマってて」と笑って答えた。それだけだった。19分22秒。私たちは口を閉ざした。そして君が先に立ち上がった。
「またね。」たった二文字。口元だけで笑った挨拶だった。店内では雨音が少しずつ大きくなった。私は窓の外を見た。君の傘は黒、私の傘も黒。空は灰色。私たちは雨の降る金曜午後4時7分に、それぞれ歩き去った。
そして24時間、何の言葉も届かなかった。
静かに煮えたぎる欲望の顔
あの人は私のことが嫌いなのかしら。
それとも私がつまらなかったのかな。
いや、もしかして――
指は無限スクロールを続けた。1対1のチャットルーム、「既読」マークはゼロ。君のプロフィール写真は相変わらず運動場で撮ったものだけど、今朝はどこか疲れて見えた。私はその疲れが私のせいかどうかをひたすら推測した。それがゲームだった。自分で作った罠。
「沈黙は拒絶じゃない、試練なんだ」
私は自分に囁いた。「先に揺らいだら負け」
ケース1 ヒジン、29歳、ビジュアルデザイナー
ヒジンは5月最後の水曜日、漢江(ハンガン)公園のベンチで「ジェユン」と出会った。写真では白黒フィルムの匂いがした。実際もそうだった。二人は缶ビールを分けて47分過ごした。会話はたった三文。
- ヒジン:「今日の空、ヤバくない?」
- ジェユン:「だから写真撮りに来たんです」
- ヒジン:「私も」
そして別れた。
翌朝9時14分。ジェユンのカカオトークは沈黙のまま。ヒジンはオフィスで業務チャットだけ38回タップした。通知音が鳴るたびに心臓がドンと沈んだ。
昼頃、彼女は業務用メッセンジャーに「ジェユンさん、昨日はいかがでしたか?」と送った。1分後、ジェユンは既読スルー。
その夜ヒジンはYouTubeアルゴリズムの深淵に沈んだ。「もしかして彼は死んだのか」という仮説を自分で作り、「それとも私が退屈すぎたのか」と問い直した。
72時間目の沈黙で彼女はついにジェユンをブロック。そして6日後に解除した瞬間、ジェユンのプロフィール写真が変わっていた。アイスクリームを舐める女の子。その写真がヒジンの胸を揺さぶった。
「私は単なるアイスじゃなかったのに」
ケース2 ミンス、31歳、UXデベロッパー
ミンスは6月第2土曜日、江南(カンナム)駅裏の紅茶専門店で「ソア」と会った。ソアは首筋に小さなタトゥーがあった。「愛してる」という文字だった。ミンスはそれが誰への言葉かは訊かなかった。
二人は紅茶をすすりながら1時間半過ごした。会話はほとんどなかった。たまにスマホ画面を見せてくれた時、ミンスは彼女が撮った落ち葉の写真を見た。
それで終わり。
ソアは0時を過ぎてカトクを送った。たった一文字。「お」。ミンスは「え?」と返信。そして48時間、その「お」は無反応だった。
ミンスは開発者らしくシミュレーションを回した。「お」が「おお」である確率、「おk」である確率、「まだ考え中」である確率。彼はソアのタトゥーを拡大して見ようとした。たとえそれが元カレの名前でも納得できる。沈黙はミンスに「まだ終わってない」という希望の糸を見せた。
3日目の夜、彼はついにソアに「明日の夜、また紅茶でも?」と送った。30秒で返信が来た。
「いやです」
そしてブロック。
沈黙の境界線
なぜ私たちはその空虚に惹かれるのか。理由は単純だ。沈黙は保護膜だ。相手がまだ私を傷つけていないという証。会話が続けばすぐ傷がつく。でも何も言わなければ、相手はガラス管の中の人魚のように永遠に美しいままだ。
私はまだ君を知らない。だから愛せる。
この言葉は実は逆だ。
私は君を知らないから、愛せると信じている。
心理学者はこれを「可能性の狂気」と呼ぶ。可能性が現実より強烈な瞬間。結局私たちは沈黙を破るより、その中で静かに味わう。相手の手が伸びてくるような気がして――いや来ないと分かっていても。
君の指が先に動くか、それとも私が先に堕ちるか
私はまだ24時間目を生きている。君のプロフィール写真は相変わらず運動場の霞んだ陽だまりだ。私はひとりでその陽だまりを見続けている。
もしかして君も今この瞬間、私を私のように静かに味わっているのではないか。
私たちは今、お互いに最も完璧な人物として残っている。でも一行のメッセージ、たった一文字でも落とせば、そのガラス管にヒビが入るだろう。
だから私は問う。今でもその沈黙を破りたくはないか。