あの日の午後、ソロノキの下で時計は止まった
午後3時14分。 ジヨンは手に持ったビニール袋を地面に下ろし、ソロノキの陰で揺れる黒のスリップを見た。それは確かに先週末、夫のベッド脇の洗濯カゴに入れておいた自分のものだった。
今、その服は32年間一度も脱いだことのない夫の首にかかって揺れていた。
時間がその場で止まった。
ジヨンは足音を忍ばせてソロノキの周りを回った。何百回も歩いた石段の上で、夫ヒョンスとある女性が立っていた。女性は後ろ姿だけでも、すぐに分かった。半年前にジヨンが雇った新しい家政婦、ミエだった。
ヒョンスがミエの髪をそっと撫でて笑う姿が、陽光に真紅な唇のように滲んだ。その笑顔はジヨンにとって、1982年11月の初デートでヒョンスが見せてくれたあの微笑と同じだった。
息を殺した後、彼女は選択した
ジヨンは踵を返し、家に戻った。背後から聞こえる笑い声は変わらなかった。
彼女はキッチンのシンク下から最高級のステーキ用包丁を取り出した。一瞬、刃が陽光に反射して壁を煌めかせた。そして再び下ろした。
代わりにジヨンはリビングのカーテンの陰に隠れ、ふたりを見守った。
14分26秒。その時間の間、彼女は夫が別の女性にどんな仕草をし、どんな息遣いをするかをすべて記憶した。
自分に向けたものと寸分違わぬ、いえ、それ以上に柔らかな指先の動き。
その刹那、ジヨンは感じるべき怒りの代わりに、冷たい好奇心を覚えた。
どうしてミエなの? うちの一番隅っこのほこりまで拭いていたあの子と、何を語り合ったのだろう?
彼女はその日、何も言わなかった。夕食の席でヒョンスはいつものようにプルコギを一口口に運び、ジヨンは微笑んだ。
ミエは翌日辞めた。理由:家庭の事情。
新しい家政婦に対し、ジヨンは一度もミエのことを訊かなかった。ヒョンスも何も語らなかった。
そうして2006年6月18日は封印された。
18年間、引き出しの奥に押し込めた疑問符
2024年、現在。 ジヨンは玄関先で郵便物を受け取る。2006年と同じように午後3時頃だ。手には昔のように買い物袋ではなく、高血圧の薬の袋が下がっている。
彼女はリビングのソファに座り、封筒を開けた。「第39回同窓会ご招待状」と記されていた。下部には小さな文字で参加者名簿があり、そこに「イ・ミエ」と見えた。
ジヨンの心臓が止まり、再び鼓動を始めた。
ヒョンスは未だ知らない。18年間、妻があの日を目撃し、結局問わなかったことを。
夜になるとヒョンスはいつものようにテレビのリモコンを手に取り、ドラマをつけた。
そこでジヨンが言った。
「思えば、6月になると私たち結婚32年ね。」
ヒョンスは頷いた。その眼差しは2006年のあの日と少しも変わらなかった。
あの眼差しと、あの女の眼差しが交差したあの場所。私は今でも忘れられない。
ジヨンは胸の内で呟いた。
彼女はもう毎年6月になると、ソロノキの下で揺れていた黒いスリップを夢に見る。そして目覚めると、タオルで目元をそっと拭う。
ヒョンスは何も知らずにいびきをかいている。
彼女が開かなかった二つ目の物語
ソウルの30坪のマンションでも、似たような出来事が起きた。 1992年に結婚したサンフンとスジンは、去年息子の結婚式を終えて帰るなり、ベッド脇の引き出しから2006年の美容院領収書を発見した。 スジンのものではない、別の女性の財布から飛び出した領収書だった。
そこに記されていた名前は「ミンジュ美容室」で、下部の電話番号にかけてみると、17年前にその美容室はすでに閉店していたことが分かった。
それでもスジンは問わなかった。サンフンも結局言えなかった。
ふたりは互いの沈黙を毎日なでなでしながら、その領収書を再び折って引き出しの奥にしまった。
なぜ私たちは結局開くことができないのか
人は愛の証を探し求めると同時に、その証拠を葬り去りたい肉体と心を持っている。
32年目の夫婦がいまだ解けない宿題は、単なる「浮気」ではなく、「私たちはお互いをどれほど怖れてしまったか」だ。
浮気が明らかになったあの日、ジヨンはナイフの代わりに沈黙を選んだ。 その沈黙は怒りを飲み込んだのではなく、生き延びたのだ。
あの時問いかけていたら、私は今でもこのベッドで眠れていただろうか?
調査によると、結婚20年以上の既婚者のかなりの割合が配偶者の不倫に気づきながらも意図的に口を閉ざしているという。 それは単に我慢しているのではなく、最後まで耐えて「私たち」というシステムを維持しようとするもがきなのだ。
不倫の真実を語る瞬間、32年の共同体は一瞬にして崩壊する。 だから彼らは沈黙を選ぶ。 ナイフを手にした瞬間も、沈黙で押し殺した瞬間も、どちらも同じ嫌悪を生む。
あなたはまだあの扉を開けることができるだろうか
2006年6月18日、腕時計は3時14分を指していた。 その時計はある日故障して止まったが、ジヨンは修理しなかった。 時計はいまだに3時14分だ。
ヒョンスは実際にあの日からミエと再会したのだろうか、あるいはただの午後の誘惑だったのだろうか。 誰も知らない。
今この瞬間、あなたのベッド脇の引き出しには何が隠されているだろう。 いや、あなたの心の片隅に、まだ3時14分の沈黙が震えていないだろうか。
そしてあなたは、果たしてあの扉を開けることができるだろうか。